中世キリスト教とイスラムの誕生が生んだ名作

キリスト教は、ユダヤ教の救世主が現れて救われるという教義を、民族や階級を超えた普遍的なものに発展させた新興宗教として、ローマ帝国内で広まり、4世紀にはローマ帝国の国教となった。一方、キリスト教の兄弟分としてイスラム教が生まれた。

▲キリスト教 イメージ:PIXTA

キリスト教はユダヤ教の『旧約聖書』を土台とし、ギリシャ語で書かれた『新約聖書』で、その考え方をギリシャ思想の影響のもとで確立した。3世紀にリビア生まれのアウレリウス・アウグスティヌスは、新プラトン主義の影響のもと、人間の原罪が教会によって救われることを理論化し『告白』『神の国』を書いた。

13世紀のトマス・アクィナスは『神学大全』で、アリストテレスの思想に助けられながら、人間の思索の価値を認めつつ、それで解決しない部分は神に頼るしかないと、キリスト教とギリシャ哲学を融合させた。

キリスト教は西ヨーロッパでは聖人信仰などを通じて土着化したが、中東ではムハンマド・イブン=アブドゥッラーフが、より厳しく神の力のを高みに押し上げ『コーラン』(経典)とした。

イスラム教では、シーア派系のイブン・スィーナーやアル=ファーラービーらが、新プラトン派的にアリストテレス哲学を取り入れたのに対して、セルジューク・トルコ時代のアフマド・ガザーリーは、神秘主義に依拠して『哲学者の自己矛盾』を書いてスンナ派の理論的支柱を打ち立てた。

スペインではイブン・ルシュド(アヴェロエス)らが、アリストテレス研究を発展させ、スコラ哲学の確立に大きな影響を与えた。『千夜一夜物語』はペルシアなど各地の民話を集めたもので、19世紀にフランスで整理されたものが、イスラム社会への理解を普及させた功績は多大である。

中世のヨーロッパでは、騎士道をテーマとした物語や民族的な叙事詩が好まれ『ニーベルンゲンの歌』『ローランの歌』『トリスタンとイゾルデ』『パルジファル』。一連の『アーサー王物語』(初期のものでは、クレティアン・ド・トロワの『ランスロまたは荷車の騎士』。後世のものでよく読まれているのが、15世紀ウェールズのトマス・マロリーの『アーサー王の死』)など、リヒャルト・ワーグナーのオペラの素材としても有名だ。

▲中世ヨーロッパの騎士 イメージ:PIXTA

十字軍などにより、西ヨーロッパでは古代文明への理解が深まりルネサンスの時代になる。ダンテ・アリギエーリの『神曲』や、ジョヴァンニ・ボッカッチョの『デカメロン』はその先駆で、ニッコロ・マキャヴェッリの『君主論』は、現実の政治を理論化しマルコ・ポーロの『東方見聞録』は世界への目を開かせた。

ジェフリー・チョーサーの『カンタベリー物語』、フランソワ・ラブレーの『ガルガンチュワとパンタグリュエル』、ピエール・ド・ロンサールの『恋愛詩集』、ミゲル・デ・セルバンテスの『ドン・キホーテ』は、いずれも人間性の解放へ向かう記念碑的な作品だ。

※本記事は、八幡和郎:著『365日でわかる世界史』(清談社Publico:刊)より一部を抜粋編集したものです。