吉村知事の現実主義は一定の成果
この結果、他の知事さんたちは恐慌をきしました。吉村洋文大阪府知事らが「補償なき休業はない」などと言い出したのです。東京都並みの助成をする余裕は、大阪などにはありませんから、国がそれを認めるなら他の自治体には助成してほしいということでした。
本来は休業への補償などあり得ません。他の人たちのために犠牲になるから、支払うのが補償ですが、今回は休業する人たちのためでもありますから、協力金なら理解できますが補償はありえないのです。ところが言葉が一人歩きして、過度の休業と天文学的補償金へ傾いていったのですから、その責任のいったんは吉村知事にあるといえます。
そもそも新型コロナウイルス対策、ことに休業対策は、社会的にも財政的にも負担が少ない割に、感染防止効果が高い政策を選ぶという、コスパ意識を無視しすぎました。飲食店の休業でも時間で制約するより、席の間隔を離すとか、個室以外での会話を原則禁止などで対処すれば良かったのではないか、ということを私は主張してきました。
また吉村知事が「どうなれば解除するのか明確な出口戦略が必要だ」「政府が措置の解除基準を示さない」と不満をいい、西村康稔経済再生担当相が「(法律の)仕組みを勘違いしており、強い違和感を感じる。解除は知事の権限」とし、吉村知事が謝罪した事件がありましたが、これは西村大臣が全面的に正しいし、だからこそ吉村知事も謝罪しました。
世論は西村大臣を批判し、吉村知事に同情しましたが、それは「一生懸命やってるのに大臣が批判するなんて大人げない」という感情論です。日本では国が自治体を批判すると、権力の横暴といわれがちですが、そういう考えは自治体をスポイルするだけで、良いこととは思えません。国と地方がフランクに考えをぶつけ合うことの、どこが悪いのでしょう。
しかし、そうした若干の不満にもかかわらず、吉村知事の動きは際立っていたということは評価したいと思います。クライアントの信頼を勝ちとり、ややこしい問題を解決する勘所を心得て、相手からも悪意を持たれないという、弁護士としての職業的技量がフルに発揮されていました。テレビ映りも良いし、短い時間での説明能力もあります。実務に対する把握能力は、抜群かどうかは別として合格です。パチンコ店の実名公表は称賛します。
地方の首長たちは、うっかりすると個人的に損害賠償を請求される訴訟リスクを抱えているので、臆病にもなるような中で、非常時として勇気を持って蛮勇をふるいました。医療関係者へのクオカード支給などセンスもいいものでした。
松井一郎大阪市長が、十三(じゅうそう)病院をコロナ専門病院にしたのもヒットで、今後の模範となるでしょう。このように維新コンビの活躍が目立ちましたし、大阪都構想の追い風にもなるでしょうが、維新が保健所を過度に減らしたのも事実です。整理するなら緊急時にどうするか手当しておくべきだったでしょう。