ソ連崩壊の一因とされるのが、1986年のチェルノブイリ原発事故という公共衛生大事件でした。ソ連共産党のようにメディア統制や言論統制を解除することで、新しい中国として生まれ変わることができるのか? 習近平政権が進むべき道を、福島香織氏が期待をこめて提言する。
※本記事は、福島香織:著『新型コロナ、香港、台湾、世界は習近平を許さない』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです
習近平政権に本当に必要なのは「情報公開」
新型コロナウイルスの猛威に対し、習近平政権は情報隠蔽と現場を理解しない誤った政策によって、感染を全国に広げ、世界にパンデミックを引き起こしてしまいました。そのことを反省することなく、責任追及を逃れるために、さらなる隠蔽と言論弾圧と大プロパガンダを展開しています。
国際社会では、ウイルスが米軍によって持ち込まれた可能性を外交部報道官が発言するなど、常軌を逸した責任転換を行おうとしています。もちろん国際社会の大半の国々は、今回のパンデミックの原因が中国の情報隠蔽にあることを知っています。
しかし中国は、感染症に疲弊した各国に対して「ウイルスとの戦いに勝利した英雄国家」として医療支援を申し出て“世界の救世主”を演じてみせるので、助けてもらった国は中国の責任追及がしにくくなります。そういう弱みにつけ込んで国際世論を誘導することで、中国は米国との価値観戦争を勝ち抜こうとしているわけです。
ですが、中国国内では人民や地方官僚、そしてメディアが習近平政権への不満を抑えきれなくなってきています。国際社会はなんとなく丸め込めても、中国人民の不満はもっと切実です。
中国の経済成長が順調で、中国共産党に黙って付いていけば、豊かな生活ができると思えていた時代ならば、政権のプロパガンダにずっと付き合って、政治的な安全のためにおとなしく騙されたふりをしていたことでしょう。
しかし今や人民は、感染症による命の危険と、生活の不安と、経済破綻のリスクを突き付けられています。政治的な身の安全をかなぐり捨てても、声を上げたい気持ちになってきているのではないでしょうか。
たとえ極権政治によって、感染症が無事に鎮静化しても、次に来る経済クラッシュ、食料や生活物資の高騰が人民を苦しめます。また、同じような、あるいは新たな感染症が、この中国では繰り返し発生するのです。
こうしたリスクから人民を救えるのは、正能量報道でも大プロパガンダでも世論誘導でもありません。情報統制の解除・言論の自由・メディアの自由なのです。
旧ソ連が、未曾有の公共衛生大災害・チェルノブイリ原発事故を起こした時、グラスノスチ(情報公開)に踏み切りました。それは、グラスノスチしかロシアの人々をリスクと苦しみから救う方法がなかったからです。
専制国家の末期に、体制が解体される3つのきっかけが「経済の崩壊」「軍事的統治の失敗」そして「公共衛生に関わる大事件」だという見方を、在米華人民主化活動家の王軍涛が『ボイス・オブ・アメリカ』で指摘していましたが、なるほどと思いました。