第3次世界大戦が進行中かもしれない――そう考えると、新型コロナウイルスをめぐるさまざまな「陰謀論」も、トンデモ論と一蹴するだけでなく、きちんと検証・分析して、その情報が何を目的としているのかを考える必要があると中国ウォッチャーの第一人者・福島香織氏は語る。
※本記事は、福島香織:著『新型コロナ、香港、台湾、世界は習近平を許さない』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。
現代の戦争は手段を選ばない「超限戦」
今がどういう時代かということについて、習近平は頻繁に「百年なかった未曾有の変局に世界が直面している」と語っています。世界の枠組みや秩序が再構築される変革期に入ったということです。つまり国際社会の立ち位置やルールメーカーが、新たに決め直されるという時代です。
これまでのルールメーカーは米国でした。それは先の世界大戦で米国を中心とする連合国が勝利したからです。戦争とは、世界の枠組みを変革させる一種のグレートゲームのようなものです。勝った方が世界のルール・秩序を決め、国際社会の枠組みを決め、敗者はそれに従うのです。
日本の国際社会における立ち位置も、中国の大国化も、実のところルールメーカーの米国が決めてきました。米国は最大の仮想敵を永らく旧ソ連としてきましたから、中国を民主主義陣営の仲間に育てようと考えたのでしょう。
また、米国と真っ向から戦争をしたアジアの小国・日本への警戒感もあって、中国を日本のライバルとして大国化させようとしたとも言われています。ですが、その結果として中国は、米国に成り代わって国際社会のリーダーの地位を狙うまでの野心を持つようになってきました。
米国の危機感の対象は、旧ソ連や日本から中国となり、中国を封じ込めようとしています。それが米中貿易戦争、5G問題、ウイグル(人権)問題、香港デモ、台湾総統選を巡る米中の攻防、そして新型コロナウイルスを巡る米中情報戦、ということになります。つまり今の混沌とした情勢は一種の戦争状況であり、第2次世界大戦以来の「世界的戦時」なのですから、第3次世界大戦だと言えるかもしれません。
中国は90年代から次世代の戦争が、非対称形の戦争であると考えてきました。その考えをもとにした戦略論は「超限戦」として世界の軍事専門家や戦略家が参考にしています。
「超限戦」とは、欧米では「ハイブリット戦」などとも呼ばれ、戦争の定義を大きく変えるものとして、いまや戦略論の中心になっています。
宣戦布告をして兵器と兵士が国家の名のもとに正面から戦う軍事的戦争だけでなく、外交戦・国家テロ戦・諜報戦・金融戦・ネットワーク戦・法律戦・心理戦・メディア戦など、非軍事的戦争を同時に立体的かつ多元的に行い、民間も軍部も区別せず手段を選ばずに、とにかく相手国にダメージを与え続けて勝つ戦争です。
ロシアがウクライナ危機のとき、この中国の超限戦のやり方で見事にクリミア併合を成功させました。勝利の大きなポイントは敵国内部住民の「世論誘導戦」にありました。ロシアは、このときフェイクニュースやSNSを使った、ウクライナ住民の世論誘導に成功したのです。
「目的のために平気で嘘をつく」は世界の常識
今まさに超限戦のやり方で、第3次世界大戦が進行中かもしれない――そう考えると、新型コロナウイルスをめぐるさまざまな「陰謀論」もトンデモ論と一蹴するだけでなく、きちんと検証・分析して、その情報が何を目的としているのかを考える必要があると思います。
第2次世界大戦中そして戦後も、日本は米国や中国の情報戦にいいように翻弄されてきました。日本人はもともと「人は目的のために平気で噓をつくものだ」という認識が足りないのかもしれません。
軍事的戦争なら米国にかなう者はいないでしょうが、超限戦においては中国も侮れません。そもそも中国は、真っ向勝負で勝てない米国に勝つ方法として、超限戦の戦略論を構築しているのです。
私は一日本人として、中国がこの「第3次世界大戦」に勝利して、国際社会のルールメーカーになることに断固反対です。中国が世界の中心になったとき、おそらく日本の民主主義や自由や法治、人権も脅かされることになると思うからです。
中国がチベットやウイグル、香港に台湾、そして中国国内の人々にやってきたことを見れば、日本と先の戦争で戦って勝利したことを、執政党としての正統性の最大の根拠にしている中国共産党国家が、日本に対してどういう態度をとるかは想像できるのではないでしょうか。
日本は、この新型コロナウイルスについて「ウイルスと全人類」の戦いという側面だけでなく、ウイルスを巡る米中を中心とした価値観の対立であり、次の時代の国際社会のルールメーカーを決め、国際秩序の行方を巡る「第3次世界大戦」のなかにいるのだという認識をもって、この感染症への対応を考えるべきではないかと思います。
そして中国の人々が感染症に打ち勝つことは応援しても、中国共産党国家のこの「第3次世界大戦」における勝利は阻まねばならないと思います。