習近平政権のプロパガンダに騙されてはいけない! 中国各地で疑心暗鬼によるパニックと秩序の混乱が起きている最中に、習近平政権は企業活動再開のふりをさせていたという。中国ウォッチャーの第一人者・福島香織氏が、中国共産党の最大にして最強の敵は“人民”だと指摘する理由とは?

※本記事は、福島香織:著『新型コロナ、香港、台湾、世界は習近平を許さない』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

情報の隠蔽こそがデマとパニックを広げる

習近平が正能量報道を打ち出し、言論統制し、真実を隠蔽しようとするのは、人民が怖いからです。何度でも指摘しますが、中国共産党の最大にして最強の敵は“人民”です。

だから対外的な国防予算より、国内向けの治安維持予算の方が大きいのです。人民が怖いから、その人民の怒りが習近平自身に向かないように、米国が敵だと喧伝し、国際世論を誘導しようとするのです。

もし、新型コロナウイルスがどのように誕生し、どのように拡散し、どれほどの人が死んだのか、真実を話せば人民はパニックに陥り、中央政府のコントロールが効かなくなり、社会が不安定になり、人々の怒りは中央政府に向かうかもしれません。

だから情報隠蔽し、その隠された情報を探ろうとする記者や知識人を弾圧し、メディアを動員して「美談」の煙幕を張るのです。ですが、人民のパニックも怒りも、実はデマ撲滅を建前とした情報隠蔽と真実を語るものへの抑圧こそが引き起こしているのです。

私も2003年のSARSのときに北京にいましたから、情報が隠されていることが本当に不安であることがよくわかります。

厳しい現実であっても、情報がある方が、情報がないよりはましなのです。情報を隠蔽され、当たり前のように政府や権威筋がフェイクニュースを流せば、政府も権威も信じることができません。だから、デマが流れるとデマに翻弄されるのです。

▲マスクを求めてドラッグストアに並ぶ武漢市民 出典:ウィキメディア・コモンズ

今回の新型コロナウイルスでは、こうした疑心暗鬼と不安が広がり、中国各地でさまざまなパニックが引き起こされました。

そのなかでも、最も残酷で悲惨なのが「湖北人狩り」「武漢人狩り」でした。湖北や武漢から来たというだけで、包囲され、駆逐され、差別されました。ひどい場合は、殺人にまで発展するケースも報告されています。

ラジオ・フリーアジアが、その残酷な状況を、現地の投稿動画などを交えて報じていました。河北省石家荘市の多くの区では、武漢人及び武漢人と密接に接触した人間の密告が奨励され、公安当局から懸賞金が出されているそうです。

武漢人旅行者が帰国する際、同じ飛行機に乗っていた上海人の客から、降りるように迫られたという報告もありました。

湖北省と隣接する河南省には、省境をまたぐ道路にバリケードが築かれ、見張りを立てて、湖北人が河南省に入ろうとするのを、獣を追うように追い払っていました。武漢から帰郷した家族がいる家を、隣人たちが外から板や鎖などで玄関を封鎖して、屋内に閉じ込めて出られないようにしていました。

この様子の動画がネット上に上げられると「怪しからん!」「差別だ!」という怒りの声よりも、他の地域も河南省にみならえ、という声が上がりました。

広東省の梅州市のとある鎮(町)では、武漢人や湖北人を見つけ出して密告すると、政府からマスク30個が贈られました。1月26日から2月7日までに、その方法で140人以上の湖北人を見つけ出したそうです。

湖北省孝感市では武漢人だけでなく、発熱者の密告も奨励され、その報奨金は1000元でした。四川省のとある鎮では、武漢から帰郷者がいる家庭を密告した人が、恨みを買い、その武漢帰りの男性に殺されるという悲惨な事件も起きました。

情報の隠蔽によって社会に不安が広がると、結果として、こうした悲しい出来事が頻発するようになるのです。