お客さんの「この日を待っていた!」に感動

――特に今年に入ってからの心の揺れ動き方は刺さりました。職種を問わず、すべての人があの時期、悩んだり、戸惑ったり、立ち止まったりしてきたので。いまもまだ悩んでいる方がたくさんいるかと思います。『ミスターデンジャー』は6月1日から営業を再開されました。

松永 正直、怖かったですね。「本当にお客さんは戻ってきてくれるのかな」と。それが再開すると同時に、たくさんのお客さんに足を運んでいただいて。私は厨房で肉を焼き始めると、ちょうどお客さんに背を向けるような恰好になってしまうので、お客さんの顔は見えないんですけど「この日を待っていた!」という感情が背中越しに伝わってくるんですよ。あれはうれしかったですね。ちょっと感動しました。

――「外出しないでください」という呼びかけはイコール「外食しないでください」ですから、みなさん外食したくて仕方なかったと思います。特にデンジャーステーキは家で再現できるものではありませんから。

松永 緊急事態宣言が出たときにはテイクアウトも始めたんですよ。以前から要望はあったんですけど、なかなかそこまで手が回らなくて。週末はどうしても混みあって3密を避けるのが難しくなるので、テイクアウトのみの営業なんかもしてみて、それはそれで好評だったんですけど、通常に近い営業時間に戻したら「やっぱり店で食べたい」という方が圧倒的に多くて、あぁ、やっぱりそうだよな、と。

――編集スタッフも打ち合わせと称して、何度となくデンジャーステーキを食べに行ったんですが、なんていうんですかね、まさに「肉を喰らう!」って感じじゃないですか? 体が元気になるだけでなくて、なんか心も元気になれるんですよね。人間、疲れたときはやっぱり肉だな、と痛感しました。

▲こんな肉厚で柔らかいステーキは他店ではお目にかかれない

松永 そういっていただけるとありがたいですね。でも、本当に外出を控えてください、というのは外食産業にとっては残酷すぎる通告でした。実際に「えっ、あの人気店が?」という有名なお店が閉店を余儀なくされた、という話をいくつも聞いています。本当だったら、お店をやっている友人や知人に電話でもして連絡を取るべきなんでしょうけど、ちょっとできなかったですね。「大丈夫か?」と聞いたところで、誰ひとりとして大丈夫な人なんていないわけで……あっ、でも「今、すごく儲かっている」というお客さんがいましたね。

――コロナ禍で?

松永 大きな建物のメンテナンスをする仕事の方で、百貨店とかがみんな休業に入ったので大口の仕事がドッと入ってきたらしいんですよ。ただ、それはいずれ入ってくるはずだった仕事が、この時期に前倒しでまとめて入ってきただけで、のちのち苦しいことになる。本当にとんでもない事態になりましたね。

――プロレス界もしばらく興行が打てませんでした。最近になって、ようやくお客さんを入れての試合ができるようになりました。

松永 以前は両国国技館でビッグマッチがあると、試合後にお客さんがどんどん店に流れてきましたけど、最近はそういうことも減りましたね。もう私がプロレスを引退してから10年以上、経っていますからね。私が元プロレスラーであることを知っている方は多いかもしれませんけど、私の現役時代に会場で応援してくれていたファンの方で、いまでもプロレス会場に足を運んでいる人はずいぶん減ってしまったんじゃないですかね? そっかぁ、あんまり意識してこなかったですけど、もうリングを降りて、ステーキに専念してから、そんなに経つんですねぇ〜。

次回は、プロレスを引退することになった『本当の理由』


<店舗情報>
■ステーキハウス『ミスターデンジャー』
立花本店
住所:東京都墨田区立花3-2-12 田中ビル1F
TEL:03-3614-8929
営業時間:PM5:00~PM10:00(ラストオーダーPM9:30)
定休日:水曜日
※暫くの間、営業時間が変動いたします。詳しくはホームページ(https://www.mrdanger.jp/)をご覧下さい。

プロフィール
 
松永 光弘(まつなが みつひろ)
1966年3月24日生まれ。愛知県知多郡武豊町出身。高校時代は相撲でインターハイに出場後、誠心会館などで空手を学び、士道館杯にて全日本3位の実績を残す。 その後、FMWの旗揚げに誠心会館所属として参戦。同団体の旗揚げ日である1989年10月6日にデビューを果たすと、同年12月のFMW後楽園ホール大会で、日本初の『有刺鉄線デスマッチ』を行う。1992年からはW★INGに参戦すると、後楽園ホールの2階バルコニーから伝説のダイブを敢行。“ミスター・デンジャー”の異名を欲しいままにし、プロレス界での地位を確立した。その後も各団体で激闘を繰り広げる一方、ステーキハウスで厳しい修業を積み、1997年に『ステーキハウス ミスターデンジャー 立花本店』をオープン。2009年12月23日に引退試合を行いリングに別れを告げると、ステーキ店の経営に専念。以降、さまざまな苦難に直面するが、デスマッチで磨き上げた創意・工夫で、都内でも屈指の人気店へと成長させた。