ラーメン屋の新規店で行列店になるのは1/1000
ラベリング効果という意味ではテレビも同じだろう。
テレビのラーメン特集ってよく見かけるけど、ああやってテレビで取り扱ってもらえるお店はわずかだし、複数回となると本当にごく一部の店だけだ。俺の店も乃木坂46が出演する番組で紹介してもらったけれど、話題になっているからテレビに出られるのか、テレビに出たから話題になるのか……いずれにしても一回だけ出たぐらいでは、客足がものすごく伸びるわけでもない。実際、放送後に客足が伸びたわけではない。
それでもテレビの影響はスゴい。ああやってテレビで流れると、なんとなく流行っているような感じに映るし、それでラーメン屋を目指す人が増えてしまうんだけど、俺の感覚で言えば、新規の店が1000軒あったら、そこから絶えず行列のできる大人気店になれるのは、まぁ、多くても1店舗かな、というレベル。それが現実だよ。
でも、テレビでは「こうやって成功するのは1000軒に1軒ぐらいです」とは言わないでしょ? ものすごいレアケースで人気店になったお店も、放送上は「なるべくして人気店になった」みたいな扱いになる。
いっそのこと、画面の隅っこに「これは特別なケースであり、誰が開業しても成功するわけではありません」とテロップを出してもらいたいぐらいだ。
テレビで紹介された1000軒に1店舗のヒット店を見て、過剰に夢を抱いて、ラーメン業界に飛び込んできたら、あまりの厳しさに1年で撤退する。そういうケースがあまりに多すぎて、なんだか気の毒になってきてしまう。
でもね、1000軒に1店舗でもミラクルが起きてしまう以上、俺も「絶対に成功しない」とまでは、なかなか断言できない。
時にはラッキーが重なって人気店になってしまうケースも稀にある。まったく経験のない人がひょんなことで大儲けしてしまう「ラーメンドリーム」みたいなものはたしかに存在する。こればっかりは誰にも予測ができない。
命がけだった全日本プロレス時代を思い出す
話はテレビの話に戻るけど、ラーメン特集を見ていて「いや、これはどうなの」と思うことはほかにもある。
「髪の毛がどんぶりに浸かっちゃうんじゃないの?」とドキドキしてしまうぐらい伸ばしている、不潔な身なりの店主を「異端のカリスマ」みたいに持ち上げるのは、よろしくないな、ということだ。ラーメンは美味いのかもしれないけど、そういう人間に憧れて、変わった格好をした若者たちがラーメン屋を続々とオープンしたりするのは、あんまりいい傾向ではない。飲食店は「清潔が第一」だからね。
とにかく真面目に、清潔にやっていくしかないんじゃないかな。
ラベリング効果なんかに負けず、俺もいつまでも続けていきたいけれど、体もガタガタだし、歳も取ってきたから、いつまで続けられるかはわからない。
ラーメン屋は肉体労働。今のように何から何まで自分でやる、というスタイルを守っていったら、本当にいつまで体がもつのか見当もつかない。
ここで思い出すのはやはり馬場さんが率いる全日本プロレスの時代だ。
初めて三沢さんから投げっぱなしジャーマンを喰らった時、「こんな試合をしていたら、いつまで体が持つかわからない」と思った。それでも俺たちは毎日、命がけで試合をしていた。まさに、『ジャイアント馬場が率いる全日本プロレス』という一代限りの看板だったのだろう。今はもう味わうことはできない。
もし、この記事を読んで『麺ジャラスK』の味に興味を持たれた方がいたら、ぜひ、一度、店に足を運んでみてほしい。大げさではなく、いつまで『俺だけのラーメン』を提供できるかわからないからだ。
体はガタガタだけど、俺は明日もラーメンを作っているだろう。