新型コロナウイルスの流行のピークを越えた中国は、感染症で弱っている国にお金やマスクをばら撒くことで、習近平政権のマイナスイメージを払拭しようとしている。中国ウォッチャーの第一人者・福島香織氏が語る、コロナショックを経て新たなフェーズに突入する中国の脅威!

※本記事は、福島香織:著『新型コロナ、香港、台湾、世界は習近平を許さない』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

EU諸国よりも頼りになると思わせた中国

メディア等を利用した国際世論の誘導もさることながら、中国の情報戦で手ごわいのは、チャイナマネーや巨大中国市場といった、欲に目のくらんだ途上国や財界の力が強い国家に対する外交を通じた影響力の発揮です。

中国は新型コロナウイルスの問題を「全人類VS.ウイルス」との戦争と定義し、中国が世界のために最前線で戦っているというイメージを再構築し、隠蔽によって感染症を世界に拡散させたという責任の追及をかわそうとしています。

2020年3月に入って、新型コロナウイルスの新たな発症例の増加率に関して、中国があきらかな減速期に入り、その一方でイタリアを中心に欧州、イランを中心に中東、そして米国や韓国でも感染拡大に歯止めがかからないことが、こうした中国のプロパガンダを後押しする結果になっています。

▲韓国の大邱市で救急車を消毒する担当者 出典:ウィキメディア・コモンズ

例えば重篤感染地のイラン、イタリアや韓国に対しては、感染症を抑え込んだ中国の経験を提供するとして支援を申し出ています。中国はイランに対して医療チームを派遣し、早々に25万個のマスクと5000の試薬を送りました。

急増する感染者に対応しきれず医療崩壊を起こしたイタリアにも、中国は医療チームを派遣しマスクなどを提供しました。王毅外相は2月28日にはイタリアのルイジ・ディマイオ外相に電話し「世界には『健康のシルクロード』が必要だ」と訴えました。

「健康のシルクロード」は、習近平の提唱する「一帯一路」戦略構想のなかの1つで、アフリカなどで行っている中国による病院建設支援など、医療・衛生インフラ建設協力構想です。

イタリアはG7の一員で先進国ですが、中国からのこうした支援にイタリア国民は「EU諸国よりも中国の方が頼りになる」と親中世論が高まりました。

▲ジュゼッペ・コンテ伊首相および対策本部 出典:ウィキメディア・コモンズ

中国グローバル化シンクタンク理事長で、中国国務院参事の王輝耀がロイターに、こんなことを語っていました。

「中国は“パンダ外交”によく似た方法で、世界に「善意」と「友誼」を示しているところだ。この医療外交で、過去数年の(一帯一路が中国版植民地主義であるという)ネガティブ国際イメージを払拭できる」と。

また、オーストラリアのロウイー研究所研究員のナターシャ・カッサムが、ロイターにこう語っていました。

「世界各国政府が感染対応にまさに疲弊したとき、これは中国が挽回するひとつのチャンスになる」
「中国が一部、先進国とみなされる国家に支援を提供できることが示され、これは中国当局に非常に有効な宣伝になるだろう」

感染症で弱っている国にお金やマスクをばら撒いて、「善意」と「友誼」を示して、その国の世論を親中派にすることで、それまでの「中国が隠蔽によって疫病を拡散させた」というマイナスイメージを払拭しようというのです。

こういうやり方は、通常時ならばアフリカや東南アジアのような途上国にしか通用しないのですが、感染症というのは初期対応を間違うと先進国でも医療崩壊が起き、また周辺国から忌避され、被差別感を味わいます。そういうときに支援してもらうと、それまで中国を批判していた国ですら、ほだされてしまうということのようです。