「正真正銘の自分自身」とは才能である

あれからずいぶん時間が経ち、今ではもうIさんが何をしているのか分かりません。

まだ赤ん坊だった息子をベビーカーに乗せ、妻と3人で調布の甲州街道沿いを散歩しているときに、ばったり再会したのが最後なので、少なくともそれから25年くらいは経過しています。

名前と会社名で検索をかけてみても引っかからないから、ちょっと心配なんだよな……。

「この本、Iさんに読んでもらいたいなぁ」

『わたしはオオカミ 仲間と手をつなぎ、やりたいことをやり、なりたい自分になる』(アビー・ワンバック:著 寺尾まち子:訳/海と月社:刊)を読み終えたとき、そう感じました。

ご存知の方も少なくないかと思いますが、著者は2015年に引退するまで、女子サッカーの世界で数々の偉業を残した人物。2004年のアテネオリンピックと、2012年のロンドンオリンピックで金メダルを獲得し、ロンドンオリンピックでは最優秀選手に選ばれるなど、幾多の実績を持っています。

引退後は、女性の権利・平等・活躍などを促す活動を行っており、女性のリーダーシップ開発を目的とした団体「ウルフパック・エンデバー」の共同設立者としても有名。

女性のあり方について、彼女がそこまで尽力することには理由があります。つまり同性愛者として、多くの理不尽な問題に直面してきたのです。

1995年、環境悪化が進むイエローストーン国立公園を再生させるため、70年間いなかったオオカミが放たれたそうです。賛否両論あったものの、結果的にオオカミは、草木を食べ尽くしつつあったシカの行動を大きく変えたのだとか。その結果、動物と植物の生態系が再生したわけです。

著者は、そんなオオカミの存在価値を、女性のそれに置き換えているわけです。

イエローストーンでは、多くの人々から生態系をおびやかすと恐れられていた存在=オオカミが、生態系の救世主となった。
では、これをわたしたちの世界に置きかえたら?
多くの人々から現在の体制をおびやかすと恐れられている存在=女性が、社会の救世主となるということだ。
女性こそ、わたしたちが待ち望んでいた存在だということだ。

(20ページより)

多くの、つらく納得できない体験を乗り越えてきた結果、彼女は自身がLGBTであることを高らかに宣言し、そんな自分、あるいはすべての女性たちのために動いているということ。

だから「わたしだけではない。オオカミは、すべての女性のなかにいる。(33ページより)」というフレーズも出てくるのですが、これは女性のみならず、“すべてのLGBT”に当てはまることではないかとも思います。

Iさんにも読んでほしいと感じたのも、そんな理由があるから。よって今回は、上記のフレーズに続く文章を「神フレーズ」としてご紹介します。

オオカミとは、世間からこうあるべきだと教えられる以前の“生まれながらの”自分だ。
オオカミとは才能であり、力であり、夢であり、声であり、好奇心であり、勇気であり、尊厳であり、選択であり――正真正銘の自分自身なのだ。
(33ページより)

書いてみて改めて感じたのですが、これは“すべてのLGBT”どころか、この世界に生きるすべての人に、あてはまることかもしれませんね。