野球の本質は「プレイボール!」

川﨑さんは、若い世代や子どもたちに、無理をしてまで野球を好きになってもらいたくはない、と考えている。

▲チームの若手選手に対する眼差しは優しい

「野球を嫌いになったことは、いっぱいあった。少年野球のときにキャプテンをやって、九州大会、全国大会にも行った。メダルをいっぱいもらってね。でも、監督が厳しかったし、僕もキャプテンだから同級生に厳しくした。楽しくなかった。『勝ち』が楽しいと思ったら大きな間違いなんだ。勝てば幸せってものではないんだよ。だから僕は1回野球をやめて、バスケに行った」

近年、少年野球人口が減少していると言われる。川﨑さんは、子どもの頃から勝負にこだわりすぎることに原因があるのでは、とみている。

「人生で『勝つ』なんてことはないんだから。それに野球はしょせん野球なんだよ。武士道とか『道』が付くやつは『はじめ!』で始まる。礼に始まり礼に終わる。でも野球はそうじゃない。『プレイボール!』だよ。ボールで遊びなさいと。遊ぶんだよ。それを勘違いして、武士道とか『はじめ』でやってるから、勝ち負けを気にするし、勝負にこだわりすぎる。子どもたちが野球をイヤになって、やめていく。これはもう当然。子どもたち、偉いよ。それが正解なんだから」

それでも、野球が面白ければいずれ帰ってくる。そのための環境を作ることが大人の役目だという。「野球というスポーツで、いかに自分自身と向き合わせるか。子どもたちが、自分で喜んだり悔しがったりできるかが大事」。

川﨑さん自身の言葉にもあったが、流れに「身を任せる」こと。なかば強引に結びつけるならば、これが「土壇場」に対する川﨑さんのスタンスといえそうだ。

「踏ん張らなくていい。転んでいいの。その代わり、転び方を覚えてね。自然に転べば、きれいに立ち上がれる。踏ん張るとね、やっぱり力が入ると転んだとき大ケガになっちゃうから。力を抜いて」

それは野球に限ったことではないという。

「会社も休んでいいんだよ。辞めてもいい。今やれることをやる。『野球選手になりたい』っていうのも、なれるときはなれるし、なれないときはなれない。それが人生なの。野球は残酷だから、何が起きるか分からない。自分の感性を大事に生きていれば、必ずあなたが進む方向にあなたの道ができる。それが野球選手なのかもしれないし、電気屋かも知れない。それははたして誰も分からない。ノーバディ、ノウズ。だから力を抜いたほうがいいよ」

これまでの野球人生を振り返ってみれば「運がよかった。運しかなかった」と笑う川﨑さんだからこそ、たどり着いた境地なのかも知れない。

≫≫≫ 後編へ続く

プロフィール
 
川﨑 宗則(かわさき・むねのり)
1999年のNPBドラフト会議で福岡ダイエーホークスから4位指名で入団。2003年には三塁に定着し、初の規定打席もクリアしてリーグ優勝、日本一に貢献した。04年からは遊撃を任され全試合に出場、盗塁王と最多安打を獲得する。06年には第1回WBCの代表に選ばれ、正遊撃手として活躍し優勝。09年の第2回大会でも代表に選出され連覇に貢献した。その後もホークスで活躍すると、2012年にマイナー契約でシアトル・マリナーズに移籍し、活躍の場をアメリカに移す。トロント・ブルージェイズやシカゴ・カブスではその明るいキャラクターでファンやチームメイトの人気選手になるなど、メジャーリーグで活躍し、2017年にソフトバンク復帰。2018年からは、一度野球選手としてのプレーを休み、育成年代への指導を中心に活動していたが、2019年7月に味全ドラゴンズと選手兼コーチ契約をした。現在は栃木ゴールデンブレーブスでプレー中。

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