『EXテレビ』で突きつけられた2つのお題

次の年には独立し、フリーランスになった倉本さんは『EX(エックス)テレビ』で全国的に認められるようになる。『EXテレビ』は月曜日から金曜日の深夜に放送された、いわゆる帯番組で、月・水・金曜日を東京の日本テレビが、火・木曜日を大阪の読売テレビが制作した。

ここで「なにか新しいことをやってくれ」と言われた倉本さんには、2つのお題があった。ひとつは、大阪が担当する曜日で上岡龍太郎さんの凄さを知らしめること。もうひとつは、月・水・金を担当する東京版『EXテレビ』を圧倒することだ。

「上岡龍太郎ほどの天才を、大阪にずっと置いておくのはダメだ。絶対に全国ネットにのせて、すごい人がいるって言いたかった。もうひとつは、東京と大阪で比較されることはわかっていたので『大阪はすげー!』って言わせたかった。その2大命題があったから、めっちゃ楽しいんですよ」

お題があれば、面白い答えを出す。自らを「大喜利体質」だという倉本さんは、担当する火曜日の『EXテレビ』で、当時どこもやっていなかったテレビ論を展開した。あの番組は、もっとこうしたら面白くなるのに、そんなおせっかいな議論をする。番組改編期には、他局の新番組やキャスティングの情報を入手して「どの番組がすぐに終わるか」ダービーもやった。

▲倉本さんの人生は常にお題に挑戦し続ける人生だ

視聴率を調査する「調査機」は実在するのか? という企画では、番組内で「調査機がある家庭の人は、こちらが指定する時間、NHKが放映を終えたあとの『砂嵐』を観てください」と告知、検証した。なにも映らないただの砂嵐が0.2%ていどの視聴率を獲得し、調査機が実在することを証明した。こうした「遊び」の延長が、のちの『ダウンタウンのごっつええ感じ』をはじめとするバラエティ番組の仕事へとつながっていく。

倉本さんは今、意外なことにテレビの仕事を続けながらYouTubeの番組に出演している。しかも、フリップ(ボードを使った)大喜利が中心だ。倉本さんが生み出し、今も大好きな「フリップ大喜利」が、お笑いに興味のない人たちにはまだまだ知られていないと痛感したからだ。

「僕は作った人間だし、テレビでもあれだけやったし、みんな知ってるもんだと思っていた。でもそれは、ある程度お笑いが好きな学生とか男性が中心で。『YouTubeで大喜利をやりませんか』って声をかけられた若い子と話をしてみたら、興味がないから説明してもなんのこっちゃわからないという感じで、ポカンとしとったんです。あれだけフリップ大喜利というものを世に広めてきたつもりだったんですけど、全然に広まってないやんけ! って(笑)」

しかし、だからこそ「面白い」が出てくる予感がする。「大喜利の答えって、その人が出るんですよ。お笑いのことがわかってなければ、わかってない人ほどね。それが面白いんです。『あんたしか出せへん答えやな』ってのが絶対にあるんですよ」。そう倉本さんは語る。

昨今、コンプライアンスが重視されるようになり「お笑い」がやりにくくなっているのではないか、全世界に発信されるYouTubeとなればなおさら厳しそうだ。だが、倉本さんは、そんな状況だからこそ、やりがいがあるという。「コンプラはあったほうがいいんですよ。その制限のなかで、どれだけおもろいことができるっていう勝負ができるから」。

新たな「お題」が倉本さんの目の前にならんでいる。


プロフィール
 
倉本 美津留(くらもと・みつる)
放送作家。 「EXテレビ」「ダウンタウンのごっつええ感じ」「伊東家の食卓」 「たけしの万物創世紀」「HEY!HEY!HEY!MUSIC CHAMP」 「松本紳助」「M-1グランプリ」「ダウンタウンDX」 「浦沢直樹の漫勉」「シャキーン! 」ほか、 数々のテレビ番組を手がける。 著書に『ことば絵本 明日のカルタ』(日本図書センター)、 『ビートル頭―ビートルズの使い方 世界をビックリさせつづけるクリエイティブの本質』 (主婦の友社)、 『倉本美津留の超国語辞典』(朝日出版社)、『笑い論』(ワニブックスPLUS新書)、 『パロディスム宣言』(美術出版社)、など。