メンバーの視線が2階席までしっかりと届く理由

第1部が開演しても、メンバーはステージに登場しなかった。ただ、声だけは聞こえてくる。これは、第1部全体を「ラジオ番組」を模したパッケージにしたから。通常、MCコーナーにあたる部分でもメンバーはステージを降りて、ラジオ番組風のトークが会場に流れる、というシステムになっていた。

コロナ禍では、観客はマスク着用が義務づけられ、声援を飛ばすことができないので、どうしてもトークが一方通行になってしまう。その解決策として、ラジオ番組風にしてしまい、事前にSNSなどで寄せられた声を「リスナーからのお便り」として紹介することで、ファンとの「対話」を成立させてみせたのだ。コロナ禍ならではの新演出である。

観客とのコミュニケーションという意味では、もうひとつ印象的だったのは、メンバーの目線、である。2階席の奥から見ていたのだが、最初から何度も「目が合った」ような気がする瞬間が多々あった。そのタイミングで愛来が「2階席もちゃんと見えてますよー!」とマイクで煽る。その言葉で観客も「目が合っていたような気がする」のではなく、本当に「目が合っていた」のだと確信する。

「そんなこと、アイドルだったら誰でもできるんじゃないか」という方もいるかもしれないが、じつは結構、難しいことなのだ。いや「できている」と思い込んでいるアイドルは多いかもしれないが、ステージからの感覚と、客席(1階席後方や2階席)で受け止める感覚はかなり違う。「見てもらえてない」と感じたときの2階席の置いてけぼり感は寂しすぎるし、結果、館内が一体化しない、という悪循環に陥ってしまいがちだ。

よっぽど意識していないと、ここまで2階席へ視線が届くことはないはずだ。事実、メンバーに確認してみると、みんな「かなり意識していた」という。この時点では2020年のラストライブだと思っていたからこそ「しっかりお客さんと目を合わせたかった」のだ。そこを意識するあまりパフォーマンスが疎かになってしまったら、まったく意味がないのだが、この日のステージの満足感の高さたるや! 

▲感謝を込めてしっかりと会場を見渡すからこそメンバーの目線と気持ちは伝わるのだ