日本人経営店では寒空の下で待機

対して、日本人が経営する飲食店はどうでしょう。私の個人的な経験として言うと、ほとんどの店が店内で待機させてくれません。商品がまだできていなく所在なく立っていると「お客さんに(配達員の姿が)見えるからやめてくれ」と怒られます。昔の日本は決してそんな国ではなかったように思うのですが……。

▲かさ張るバッグを脱いで路上で待機

その一方、中華料理や台湾料理の店でも、その国の方が運営する店では満席時を除き、お店で待機していてと声をかけてくれることが多いです。去年の2月頃、ウーバーの配達時に、私は人生で最高のお茶を飲んだことは忘れません。

その日の最低気温はマイナス2度。朝から白い息を吐きながら配達する私は、まるでかつての新聞配達少年のよう。寒さに凍えながら下町エリアの台湾料理店へ炒め物を受け取りに行くと「おつかれさまねー。ここで待ってて」と言われ、出されたのはなんの変哲もないコップに入れられた粗茶でした。

振舞われた身です。粗茶だと文句を言っているわけではありません。本当にいつも飲んでいるようなウーロン茶だったかプーアル茶だったのですが、寒さで感覚がおかしくなっている手と、冷え切った体をほんのりと温めてくれたのです。まさに人生最高の一杯。

▲うまい、もう一杯! イメージ:PIXTA

もちろん、今、同じものを改めて味わっても、そこまでおいしいと感じないでしょう。ですが、あのとき、あの場所で飲んだお茶は、今までの人生で飲んだお茶のなかでも1~2を争うおいしさであったことは間違いありません。

本当の「おもてなし」とは?

一番変わった体験をしたのは、夫婦で経営するエスニック系料理店へ行ったときのこと。夜8時ごろに料理を取りに行くと、奥さんが申し訳なさそうに「材料を切らしてしまったので、これから買い物に出かける。時間がかかるので、ウーバーや配達先のお客さんに電話をしてほしい。私が事情を話して配達をキャンセルしてもらう」と声をかけてきました。

私は配達後に特に予定はなく、配達先のお客さんも「時間がかかってもOK」とのことだったのでお店で待つことにしました。

奥さんが買い出しに出かけ、店内には自分とご主人の二人きり。しばらく待っていると、上の階から階段を駆け降りてくる音が。そして私を見ると、子どもが驚いた様子で物陰に隠れました。どうやらお店が終わったと思い、両親のところへ行ったら、巨大なリュックを持った見知らぬ中年男性がいて驚いたようです。

子どもはすぐに上の階へ戻ろうとしましたが、あいさつをしてみるとひょっこりとこちらに現れ、一緒にスマホのパズルゲームで遊んで時間を潰しました。そうこうするうちに奥さんが帰宅。子どもとゲームで盛り上がっているうちに料理ができました。

そして「これ、一緒に遊んでくれたお礼」と言って、春雨の炒め物を一皿、配達する料理とは別に作ってくれ、夕食がわりにおいしくいただきました。

これらはもちろん個人の体験にしかすぎませんが、同業者からも同じような感想を聞くことがよくあります。オリンピック招致のころには「日本のおもてなし文化は誇るべきものだ」なんて話をさかんに聞いたものですが、それはお金を払っている人に向けた「おもてなし」なのだなと、外国の方が経営するお店の優しさに接していると、痛切に感じる今日このごろです。

『アラフォーUber Eats配達員 激走日記』は、2/12(金)更新予定です。お楽しみに!!