子どもたちを楽しませた“クマ探し”

2020年3月16日、フィンランド政府は緊急事態宣言を発令した。それから3日後には国境を封鎖し、27日にはヘルシンキ首都圏を含む南部フィンランド(ウーシマー県)をロックダウン。

スーパーマーケットや医療機関以外の施設はほとんど閉鎖になり、会社勤めの人たちはリモートワークに切り替えたので街中はガランとしている。この異様な状況がいつまで続くのかと、日々あんたんたる気持ちであったが、通勤中にときおり見かける窓辺のクマのぬいぐるみたちが心をほっこりさせてくれた。

▲窓辺のクマが見えるようにブラインドが上げられている 

それが、子どもたちへ向けて窓際やバルコニーにクマのぬいぐるみを飾る「Nallehaaste(テディベア・チャレンジ)」という取り組みだとあとから知った。

▲赤レンガの壁とクマの組み合わせがカワイイ

当時、健康目的の散歩はソーシャルディスタンスを保ったうえで推奨されていた。学級閉鎖で友だちにも会えず、家でやることがなくなり退屈する子どもたちに、両親が「クマを探しに行こう」と提案できるようにするのが狙いだそう。この活動はSNSを通じてフィンランド全土に広がった。

▲子育て世帯が多いラウッタサーリという島エリア

少し歩くだけでたくさんのクマが見つかる。写真中央の「TSEMPPIÄ(ツェンッピア)」とはフィンランド語で「がんばれ」という意味。大人の私もちょっと感激してしまった。

話題になったフィンエアーの機内食

日本では「フィンランド」と聞いて、とても遠くにある国をイメージする人が多いが、実は欧州のなかでは日本から一番近い。というのもフィンランド航空(以下フィンエアー)は、日本とヨーロッパを最短・最速のおよそ9時間30分で結んでいるからだ。

札幌・東京・大阪・名古屋・福岡(一部都市は季節限定)の各空港と、ヘルシンキ-ヴァンター空港間を都市によっては毎日行き来しているので、馴染みのある人もいるかもしれない。

新型コロナウイルスの流行によって、フィンエアーのフライト数は激減し、多くの従業員は解雇やレイオフ(一時解雇)され、企業は現在も経営に苦しんでいる。2020年10月、そんなフィンエアーのある試みが国内で話題になった。

通常はフィンエアーのキッチンで、シェフたちが毎日およそ12,500食分の機内食を用意していたが、減便で10%未満にまで落ち込み、大部分の従業員500名がレイオフになった。

この状況下で、フィンエアーのキッチン長は「なにか新しいことにトライしたい」と、ビジネスクラスの機内食が地上でおいしく食べられるように、ヘッドシェフ監修のもとスーパーマーケットでの販売を決めた。

この企画は、ヴァンターにあるK-Citymarket Tammisto店で実施され、国内外問わず多くの反響を呼び、たくさんのポジティブなフィードバックがお客さんから寄せられ、商品の在庫も数日で尽きたと夕刊で報じられていた。

▲広い店内でもひときわ目立つように大きな広告が吊るされている

このように順調なすべり出しだったので、翌月から最寄りのスーパーマーケットにも機内食販売が進出してきた。初日はフィンエアーのパーカーを羽織ったお兄さん二人組が、お昼時に販売コーナーに立ってお客さんを呼び込もうとしていたが、シャイな国民性なのか遠目に見てもあまりうまくはいっていない模様。

翌日、買い物客の多い週末だから宣伝係が増員されるのでは予想していたが、まさかの無人。翌朝には大量の売れ残りに値下げシールが貼られていた……。こういう無理しないところはフィンランドらしくて清々しい。

機内食のメニューは月ごと・店舗ごとに異なる場合があるそうだ。パッケージ越しに見ても色味がきれいでおいしそうである。〔※日本円換算は1ユーロ=129円に基づく(2021年2月現在)〕

▲トナカイのミートボール ブラックカラントのソースと根菜のピューレ添え(Poronlihapullia, tummaa mustaherukkakastiketta ja juurespyreetä) 価格 11.90ユーロ。日本円で約1,535円
▲燻製イワナのとアンズタケのソース(Savustettu nieriä kantarellikastiketta) 価格 12.90ユーロ。日本円で約1,664円

これらの企画商品について、周りのフィンランド人や職場の同僚たちに意見を聞いてみると「出来合いのもので、この値段は高すぎる」「同じ値段を払うなら、レストランで食べたい」「共同運航便JALの機内食が食べたい」など手厳しい答えが返ってきた。

私もまだ料理の方は実食していないが、フィンエアー機内で人気のブルーベリージュースはさっそく買って飲んでみた。

▲ほどよくグレープの果汁が使われており、さっぱりしていてとても飲みやすい 

ちなみに、フィンエアーのキッチンには日本人シェフも活躍しており、北欧料理に日本食の伝統が織り交ぜられたメニューもあるそうで、私も見つけたら食べてみたいと思っている。

この記事を書いている間にも、フィンランドではウイルスの変異種が見つかり、第三の高波が押し寄せている。政府からはワクチン接種の長い長いスケジュールや、新たな制限措置が発表されたが、未だに公共の交通機関でマスクを着けない人も少数だが見かける。

今までどおり他国のようなマスク着用義務も外出禁止令もなく、個々人に対して行動の選択の余地が残されているが、これが吉と出るか凶と出るか。その答えは後になってみないとわからない。

ako
福岡県出身。ヘルシンキ在住。web広告会社を転々とした後、2019年に職を求めてフィンランドへ渡る。現在は飲食業に従事する傍ら北欧雑貨の買い付けやアテンド、記事制作のサポートなども行っている。