5人以上の集まり禁止で変化した距離感と自由

政府の5人以上での集会禁止措置は、予想よりさらに大きな変化をもたらした。家族でも、住民票上の同居人でない場合は、5人以上が集まるのは禁じられるなど、さまざまな関係から距離感が生じ始めた。

もちろん技術が進んだおかげで、テレビ電話や動画会議サービスで家族と顔を合わせることもできるが、直接対面ではないため両親や兄弟はもちろん、親戚との距離感が大きくなった。感染者数が集中している首都圏の住民は、他地域への移動を控えるよう勧告されている状況なので、私は地方に住む両親にほぼ1年間会えていない。

韓国は伝統的に儒教思想を重んじる文化であり、特に親を敬い、先祖を供養することを重視する。

例年であれば、お正月(旧暦)や秋夕(お盆休み)には両親がいる故郷に帰省し、皆が集まってご祖先様の霊を祀るのが一般的だが、ここでも嫁の労働は半端なものではない。しかし、今年はお正月(今年は2月12日)にも自治体や教育庁から移動を控えるよう勧告メッセージが繰り返して送られたり、長距離移動の際、必ず寄る高速道路のサービスエリアの食堂まで封鎖するなど、政府からの勧告が強かったため、去年の秋夕休みに引き続き帰省を諦めることになった。

1年近く会えない両親のことを考えると、親不孝を感じ心苦しい面もあるが、半強制的な政府措置をいいことに、適度な距離を置いて初めて感じる心理的自由があることも否定できない。

もちろん、それにも関わらずルールを破り、決められた人数以上で集まる人たちはいる。しかし集合禁止に違反すると、一人当たり10万ウォン以下の罰金を課すという政府の指針があり、これに対し普段から騒音などで仲が悪かった近隣住民が、違反した隣人を告発するなど世知辛い場面もあった。

家族のみならず、さまざまな関係において距離が生じることが不可避となってから、家にいる時間が多い専業主婦は、さらに孤立感を募らせる。コロナブルーに苛まれる主婦の割合が高いのは、どの国でもニュースでよく耳にすることだろう。しかし、サポートしてあげなければいけない家族がいるからこそ、この憂鬱さを健康かつ賢明に解消しようとする動きが私の周りでは活発だ。

物理的な外での交流は減ったが、ZoomやTeamsなどのWeb会議サービスを利用して、知人たちとオンライン飲み会や同人サークル活動を続けたり、布マスクづくりや編み物などが流行っている。文化活動への渇きは、NetflixやWATCHAのような映画配信や映画レビューサービスで癒したり、外部の人との接触を最小限にして楽しめる車中泊旅行に家族と行ったりもしていた。

一方、外での活動減少によって消費が減った分の余裕資金は、最近Kospi(韓国総合株価指数)3000時代を迎え、活気を帯びた株式に投資するなど財テクに使ったりもする。

これまでとは違って、本来は不必要で義務的な関係や活動にエネルギーを注ぐよりも、もっと自由で充実した自分だけの時間が過ごせることを考えると、このような制限された状況も必ずしも悪いことではない。

▲子どもたちへの責任は誰にあるのだろうか イメージ:PIXTA

ワクチンと治療薬でママたちは自由になれるだろうか

失われた1年と呼ばれる2020年を経て2021年を迎えた今、韓国ではワクチン接種が始まり、さらに治療薬の製品化も視野に入るなか、人々には日常へ復帰できるのではないかという期待と、ワクチンの副作用や変異ウイルスの新しい拡散に対する不安が入り混じている。

2月26日からワクチン接種が始まった韓国では、7月までに老人介護施設の入所者及び従事者や、医療関係者など高リスク群の1千万人が優先接種され、11月までには全国民の接種が目指されている。疾病管理本部が事前に実施したアンケート調査では、この1次優先接種対象者の94%が接種に同意したことから、1次接種時期に約34万人に対する接種が完了されると予想されている。

▲韓国のコロナワクチン接種の優先順位 出典:韓国疾病管理本部より作成

韓国では、これまで5つのワクチン企業から約5,600万人分のワクチンを確保できたと知られており、接種の意向をもつ国民はワクチンを無料で接種できる。

▲国内コロナ19ワクチンの接種スケジュール 出典:連合ニュースより作成

一方で治療薬の製品化も加速している。現在、韓国の新型コロナ治療薬は13社が開発中であるが、そのうち4つは新薬候補物質を基にし、7つはすでに許可された医薬品を新型コロナ治療薬として用途を変更する方式で開発されている。臨床段階での対象者を順調に確保できるかが課題となるが、年内の製品化は問題ないと言われている。

ワクチンと治療薬が普及する今年は、2020年とは違う1年になるだろう。みんなが苦労した強制的距離保持は、社会・経済・関係を麻痺させ、集団的憂鬱をもたらした。

マスクを外すことはできないとしても日常が少しずつ戻ってきたら、これまで心理的に抑えていた反動で、毎日に活気が戻ってきそうだとは思う。しかし、接種したあとの症状が予測できないため不安は残る。ワクチン接種の拡大にはホッとしながらも、いざ自分自身と子どもの接種となると、簡単に決められないのである。

この春、子どもの学校の始業にあたって、これまでずっと我慢を重ねてきたママたちの息苦しさは家庭内で爆発寸前だ。なぜなら2月の正月休みが終わってから、社会的距離保持措置は首都圏は2段階、そのほかの地域は1.5段階に緩和されたものの、学校ごとに発表された学習日程表によると、登校人数は1/3遵守を原則とされた。

これが何を意味するか。ママにとっては、この春からも去年と全く変わらない日常が続くと予想されたのだ。そのため、親たちの間では登校拡大の要求は激しい。教育庁のみならず、青瓦台にも登校拡大要請が多く寄せられている。   

オンライン授業の延長による子どもの学習能率の低下の恐れは言うまでもなく、社会性を発達させる機会を奪われた子どもたちへの責任は誰にあるのだろうか。

家族構成員の社会的な欠乏を埋めるために、2021年も韓国のママたちは個人を犠牲したスーパーヒーローの役割の担わねばならない。そこには憂鬱さすら感じる余裕のないバーンアウト寸前の状況がある。それでも、ワクチンや治療薬の順調な供給のニュースを聞き、この危機状況の出口になるのではないかと一縷の望みを抱いている。

いつか、あれは一生に一度の危機だったけれど、これまで完璧でなかった自分を内的にも外的にも成長させるチャンスだったのだと、振り返って笑える日が来ますように。

韓国だけでなく、世界中で精一杯に奮闘しているママたちに、少しでも自由な春が来ますように。何事も起らない無事な日常が続くように願いながら、ママはただただ一日を生きていくのだ。 

それでも春は来るから。

Do remember, They Cannot cancel the spring   -David Hockney-

ユンミ パク
20年前の日本での短い留学をきっかけに日本の社会・文化に大きな関心を持って生きている平凡な韓国の専業主婦。15年間勤めていた戦略系コンサルティング会社で日本の大手企業と様々なプロジェクトを進めた経験から日韓両国の似て非なる文化を常に興味をもって観察・分析する習慣が今でも残っている。今はソウルから15キロ離れた京畿道で中学生と小学生の娘と夫と暮らしている。