呼吸を変えるだけで向上したアスリートの成績

私が「呼吸」の重要性に明確に気づいたのは2009年頃、マリナーズのスプリングキャンプで、ニューヨーク・メッツから前年移籍してきたジェイソン・バルガス選手と出会ったときです。

彼はトレーニングルームで仰向けになり、壁に両足をかけたまま両膝の間に直径15センチくらいのボールをはさみ、片足だけを壁から少し離すと、そのまま「フー、ハー、フー、ハー」と腹式呼吸を続けていたのです。

こんなトレーニングは見たことがなかったので彼に聞いてみると、PRIエクササイズというものだと教えてくれました。「見た目よりずっとハードだよ」というので試してみましたが、実際私は姿勢がキープできず、太ももの裏がつりそうになったものです。

しかし、この呼吸法を取り入れたトレーニングを始めてから、バルガス選手は腰痛も改善し、成績は劇的にアップ、おまけに趣味のゴルフのスコアまで上がったそうです。

▲『入門!「全集中」の呼吸法』(小社刊)より

それ以来、私はトレーニングの基本に「呼吸」を置くことを目指し、さまざまな勉強を重ねました。そして少しずつ呼吸が運動に与える影響とその理由、また解剖学的な横隔膜の機能などを学び、単に経験で知っていたことの裏付けを科学的に理解しました。

「なぜだかわからないけれど、ゆったり呼吸すると成績が上がる」というだけではなく、それがなぜなのか、ゆったり呼吸するためにはどういうトレーニグが必要なのか、呼吸と精神状態はなぜ密接に関わるのか、ということがわかってきたのです。

こうした研究は今もさらに続けられていて、日々新たな科学的知見が発表されています。

私はプロゴルファー宮里優作選手のパーソナルトレーナーも務めていますが、呼吸法のエクササイズを取り入れてから成績は大きく伸び、2017年には賞金王を獲得しました。

呼吸は精神状態と非常に深い関わりがあり、そしてゴルフは特にメンタルに左右されることの多いスポーツです。呼吸のエクササイズは、宮里選手の活躍を支えた大きな要因のひとつになったと感じています。