勝ち続けているチームのゴールキーパーは交代させるな

改めて益(やく)なき事は、改めぬをよしとするなり。

(百二十七段)
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【現代語訳】
目前の状態を変更して、良い事情に好転しないような改革には、手を着けないほうが賢明です。

サッカーの世界にはこんな言葉があるそうです。「勝ち続けているチームのゴールキーパーは交代させるな」サッカーでは、ゴールキーパーは、キャプテンとは違う意味でのキーストーン[要(かなめ)]の役割を果たしているのだそうです。キーパーを代えると、選手間に保たれていた連携の糸が切れてしまったり、ゲームの流れがいきなり悪いほうに進んでいったりするのです。

また、他のポジションに比べて、「どうして、勝っているのにゴールキーパーを交代させるのだ」と、マスコミやサポーターからのクレームが格段に多く、強く届けられるのだと言います。

もしかしたら、これは、会社などでも同じことかもしれません。無暗に人をあっちへやったり、こっちへやったりという人事をすると、せっかく築いた連携の糸が切れてしまうこともあります。

もちろん、あまりに長い間、同じ部署に同じ人たちを置いておくと、人間関係は良い結果をもたらさなくなってしまうこともありますが、あまりに短期間で人を動かすというのも良くないことなのです。

それから、経営サイドに立つ人は、会社のそれぞれの部署にいるゴールキーパー的人材を見つけることが重要です。

キーパーは、自陣を離れることなく、味方の動きと敵の動きを客観的に見ています。監督の立場に立つ経営サイドの人間にとって、現場でこうした眼を持って動いている人の意見を聞くことは不可欠です。

どこで改革を行なうか、誰をどのように動かせばうまくいくか。これは、経営者でなくとも社会人なら誰でも持っておくべき意識です。現場の状況をうまく把握している人というのは、ゴールキーパーと同じような眼を持った人ではないかと思います。

仕事はもちろん、何事もうまくいっているときは、特にキーパーソンであるような人を動かさないようにする。これは、古代から変わらぬ鉄則なのです。