知らないところで中国は日本に戦争を仕掛けている
「超限戦」という概念をご存じでしょうか。あるいは「ハイブリットウォー」といったほうが一般的には馴染みがあるかもしれません。
ひと言でいえば、ルールや制約のない「何でもアリ」の戦争のことです。目標を達成するためなら、兵器などを使用する通常の戦争手段だけでなく、外交戦や諜報戦、金融戦にサイバーテロなど、インターネット・メディア・SNSを通じた世論の誘導工作などをフルに活用して相手に攻撃を仕掛ける――政治・社会・文化・宗教・心理・思想など、およそ社会を構成するものをすべて戦争に利用して、自国が有利になるように戦略を組み立てていくわけです。
「ハイブリットウォー」の概念を最初に打ち出したのは、実は中国の軍人です。喬良と王湘穂という解放軍の大佐が、1999年に書いた戦略書『超限戦』がベースになりました。
この“新しい戦争のかたち”には、これまでの戦争の常識やルールはあてはまりません。というより、そもそも「ルールなしで戦うという」のが超限戦の考えかたなのです。
それを肯定するかしないか、好きか嫌いかにかかわらず、超限戦はもうすでに始まっています。実際、2014年のクリミア危機・ウクライナ紛争では、ロシアがハイブリットウォーによって、ほぼ無傷であっという間にクリミアを併合してしまい、世界に衝撃を与えました。
このまま超限戦がスタンダードになると、もはや単純に軍事力の差や過去の戦績だけでは、戦争の“強さ”を比べられなくなります。
民間人を戦闘・工作に利用することや、フェイクニュースを流すことにためらいがなく、人民・金融・経済・宗教まで統制下に置くことができる中国のような全体主義独裁国家と、自由や法治といった価値観を尊び、それを侵すものはたとえ自国政府でも批判するメディアや、大衆が国内に存在する自由・民主主義国家とでは、こと超限戦に限って言えば、どちらが有利かは明らかです。
超限戦は、全体主義独裁国家の“強み”を最大限に発揮できる戦いかた、と言っても過言ではないでしょう。
特に、ミサイルや戦車でドンパチやる“昔ながらの戦争”しか法的に想定していない日本のような国が相手だと、その差は圧倒的です。それどころか、日本の場合は、外国の対日工作に対する危機意識もないので、現実に中国から超限戦を仕掛けられていることすら気づいていません。
だからこそ、識者と呼ばれるような人たちでも「中国が戦争を仕掛けてくるなんてありえない」などとノンキに言っていられるのです。
たしかに、中国が“昔ながらの戦争”を仕掛けてくる可能性は、前述の通り低いかもしれませんが、超限戦はすでに始まっています。
超限戦の最大ポイントは、戦争をバトルフィールド(戦場)に集中させるのではなく、社会に広く分散させ、“ひとつひとつの戦いを矮小化する”ことです。言い換えると、それは「相手国に戦争の渦中にあることすら気づかせないまま、大勢の人を戦いに巻き込んで目標を達成する」という戦略なのです。
実はそうした“見えない戦争”のほうが、目に見える“昔ながらの戦争”よりも、はるかに大きな犠牲を払う結果になるということを、私たち日本人は知っておくべきでしょう。