そもそも建築家じゃなかった

中に入ると、これまたびっくり! 外観から受けた、いやそれ以上のインパクトの内部空間が広がっていました。

▲聖三位一体教会(内観図) イラスト:芦藻彬

「これは……まごうことなき建築だ……」

非常に重厚な、152のコンクリートの塊で作られた構造体。しかし、内部には決して閉塞感はなく、どこにいても外部の緑を垣間見ることができます。上部から垂直に、水平に伸びる塊は地面まで伸びることはなく、不思議な軽やかさを感じさせます。

間違いなく、初めて出会う空間でした。

いったい誰が、いつ、こんな建築を建てたんだ、と興味津々で説明書きやパンフレットを読み漁ると、思わず「そういうことか!」と声が出てしまいました。

この特異な建築は、ウィーンを代表する彫刻家の一人「フリッツ・ヴォトルバ」と、建築家の「フリッツ・G・マイヤー」が共同で製作したものだったのです。

▲フリッツ・ヴォトルバにより製作された模型スケッチ イラスト:芦藻彬

まず最初に、教会の「建築」を依頼された彫刻家・ヴォトルバが、数年の検討を経て模型を製作。それを建築家・マイヤーが建築として成立する形に落とし込む、という工程で作られたそうです。しかも、パンフレットを読み込んで驚いたのは、マイヤーはできるだけ忠実に模型の形を再現しようとしていた、ということです。

Wotruba's original idea was to just enlarge his model in scale – in all its organic and therefore irregular forms and facets including even fingerprints. As far as I see it, this way of realizing the concept would not have required the cooperation of an architect. The sculptor and the architect, however, didn't take long to find common ground and agree on a way to plan and materialize the project.(注1)

ヴォトルーバの最初のアイデアは、自分の模型をスケールアップして、その有機的かつ不規則な形や面、さらには指紋までもを拡大することでした。私が思うに、このような方法でコンセプトを実現するならば、建築家の協力は必要なかったのではないでしょうか。しかし、彫刻家と建築家は、プロジェクトの計画と実現方法について共通の認識を持ち、合意するのに時間はかかりませんでした。(筆者訳)

このように、建築家・マイヤーが全力でヴォトルバのアイデアを形にしようとしたのには、彫刻家・ヴォトルバの持つ作家性と、建築・空間への興味にありました。

稀代の彫刻家という、異なる分野の才能が遺憾無く発揮された結果、建築家のそれに対し、ある種異質な造形が実現されていたのでした。では、そんな覚醒した建築を練り上げたフリッツ・ヴォトルバとは、一体どのような人物だったのでしょうか。