2008年からスタートした「ふるさと納税」。地方自治体に対して、他の地域の住民が寄付を行い、寄付者の年収に応じた上限まで住民税や所得税から控除を受けられる制度で、現在は仲介サイトも運営されるなど、短期間で多くの国民に広まりました。ただ、過度な返礼品や、実際に住んでいる地域の税収が減少する恐れがある、などの批判もなされていますが、実情はどうなのでしょうか。プロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍し、世界経済に詳しい渡瀬裕哉氏に話を聞きました。

※本記事は、渡瀬裕哉:著『無駄(規制)をやめたらいいことだらけ――令和の大減税と規制緩和』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

「自立した自治体」が日本を強くする!

実際に現地に行かなくても、地域経済に貢献できる制度として「ふるさと納税」があります。長野県泰阜(やすおか)村で導入された寄付条例がもとになり、平成20年(2008)から始まりました。菅義偉首相(2021年現在)が総務大臣だった頃に推進されていたものです。

▲泰阜村役場 出典:ウィキメディア・コモンズ

都市圏と地方の地域間格差や、地方の過疎化の問題は長年の課題とされています。地方の税収が少なくなり、財源不足に悩む地方自治体には、税収の大きい都市部から分配する仕組みもあるのですが、あまり大きく行うと逆に都市圏の納税者には不利益になってしまいます。そこで、地方自治体に対して他の地域の住民が寄付を行い、寄付者の年収に応じた上限まで住民税や所得税から控除を受けられる制度が作られました。

現在は多くの人たちが、このふるさと納税を利用しています。制度が始まった平成20年の実績が81億円、以後、順調に利用者が増えていき、10年後の平成30年(2018)には5000億円を超えるようになりました。

ふるさと納税の仲介サイトも次々と立ち上がっています。自社ポイントの還元もある楽天や、auのように知られている企業をはじめ、旅行会社や百貨店が運営するサイト、独自の返礼品を用意しているサイトなど、サービスも充実して使い勝手も良くなり、短期間で広く浸透することに成功した制度です。

当初、ふるさと納税は、自分の出身地にしか払えないような制度が議論されていました。それでは利用する人もいないのでは? ということで、誰でもどこの自治体に寄付してもよいことになったのです。自治体では、より地域の魅力を活かした返礼品を考え、仲介サイトには食品や飲料品から工芸品、家電に雑貨に観葉植物などなど、多くの返礼品が掲載されています。インターネットのショッピングサイトのような作りなので、ちょっとしたお取り寄せグルメの感覚で利用する人も多いようです。

▲ふるさと納税返礼品 イメージ:PIXTA

税という側面から見ると、利用者は直接的に自分の納める住民税、税金を何に使いたいのかを指定できるので、税を市場化したという意味で画期的な制度だったと考えられます。

ただし現在は、返礼品にAmazonギフト券を配ってしまう自治体も出てきてしまい、各地の魅力のアピールや日本全体の観光振興といった、もともとの制度の趣旨から外れているのではないか、という批判もあります。

ふるさと納税には、もうひとつ税制上の問題もあります。自分がどこかの自治体を選んで納税すると、自分が住んでいる場所へ納める住民税が減る仕組みになっています。では、どのくらい減るのかというと、自治体によって変わります。地方交付税による補填(ほてん)があるからです。

地方交付税を受けている自治体の場合、減った税収分の75%が補填され、実際に減る税収は25%です。地方の人たちがふるさと納税をすると、自分の住民税は控除されて、納税先の特産品が手元に届きます。そして、納税者の住む自治体には失った税収の75%が政府から補填されるという、利用者と利用者の住んでいる地域にとってお得な話になります。

一方、地方交付税を受けずに自律的な財政運営を行っている東京都の自治体の場合、東京都民がふるさと納税制度を使っても、補填はありません。東京の人が同じ制度を使うと、住民税の控除と特産品を手にできますが、自治体の税収は補填されることなく失われるので、個人(住民)だけが得をしたことになるのです。

これでは、納税者としての感覚を都市部と地方の双方で育てることは難しくなってしまいます。ふるさと納税によって、税収が減って悲鳴を上げている東京都市部の自治体も出てきています。