炭と酒は売るほどある
ベンチに腰を下ろしたら寒空の下で乾杯。うん、うまい。店の前にはベンチと椅子が用意してあり、酒屋前の路地がまるっと酒飲みのスペースとして開放されているんです。座って飲むこともできるのはうれしいですね。夕方からぐっと冷え込んできたから、防寒をして良かった。
この日の東京は、昼間によく晴れたぶん、日が落ちてから急激に気温が下がりました。でも、寒空の下でもあまりつらく感じなかったのは、店の前で火を起こしているから。焚き火よろしく、暖気が路地全体を暖めています。
実はこちらの永世屋は、炭屋にルーツを持つそうで「炭と酒は売るほどある」んだとか。気がつけば、炭火の明かりと温もりを求めてお客さんが集まり始めました。
店のオープンは夕方5時。開店からしばらくすると、だんだんと常連さんが集まってくるんですが、皆さん軽く挨拶をして思い思いの場所に座ります。なんとなく指定席もあるみたいで、年配の犬連れのご夫婦には座りやすいベンチを皆さんが自然に譲っていて、お互いの心遣いもまた実家のような気安さを演出しています。
常連さんは新参者の私にとても優しい。皆さんは年齢も、性別も、おそらく仕事もバラバラで、それでもこの店に集まって親交を深めている。
酒場でしか会わない知り合いというのがいますが、私はそれを友達だと思いたい。旧友よりも高い頻度で顔を合わせる戦友とでも申しましょうか。お気に入りの店で何度も顔を合わせる人は、すごく相性がいいんじゃないかと思うんです。違うかしら。
隣に座った常連さんから差し入れてもらった、かっぱえびせんは30円だって。「この30円をつまみに一杯飲むのが幸せ」と笑う姿が格好よかったなぁ。人生の先輩がたどり着いた俺流スタイルは、ひとつも無駄がなくとても美しいと思いました。ちなみに、その先輩はものの30分ほどで店を後にして、「あれこそ酒飲みの鑑」なんて感動したんですが、私はもう少し飲みたいと思ってしまいました。すみません。