昭和のキャバレーのような座席で初観覧
話を戻そう。ものまねの腕を磨いた理由はなんであれ、この武器があれば手っ取り早く売れると思ったのだ。そうと決まったら行動に移すまで。
新宿に、ものまねのショーパブがあることを知った俺は、地元の番長格だった友人と3人で新宿に向かった。敵の本拠地に乗り込んで、お手並み拝見くらいの軽い気持ちだった。
そっくり館キサラは、新宿駅から徒歩5分ほどの雑居ビルの8階にあった。エレベーターでのんびりと上がり、店に入る。初めて踏み入れるショーパブという世界。ガラにもなくワクワクしているのを感じた。
店内は薄暗く、座席は昭和のキャバレーのような古びたソファーだ。流れている音楽も、さえない有線のチャンネルを垂れ流し。なんとも活気のない“しけた店”に見えた。
アルバイトであろう店員が席まで案内してくれる。俺たちはステージの目の前、最前列に案内された。どうやら酒は飲み放題らしい。前払いで料金を払って、ビールや焼酎を飲んで、談笑しながら開演を待った。
「まもなくショータイムが始まる」というアナウンスで流れる。店内を見渡すと、お客さんは俺たちも含めて10人ちょっと。100ほどの客席はかなりガラガラに見えた。最前列に座らされた俺たちは明らかに浮いていたが、ステージからイジられたりするかな、と少し期待もした。
やがて店内が暗くなる。
BGMがグッと大きくなり、アップテンポのオープニング曲が流れる。ズンズンという低音が腹に響き、照明がピカピカと光り出す。「まもなくスタート! 拍手〜!」というナレーションで、観客たちは言われるがまま拍手をする。
最初に出てきたのは、松山千春さんのそっくりさんだった。何曲か気持ちよさそうに歌い上げていた。続いて出てきた若い男性は、当時流行っていたSMAP香取慎吾さんがやっていた、慎吾ママのスタイルで登場してかなりウケていた。最後は田原俊彦さんのそっくりさんが歌って、最終的に5人の演者が登場した。
最後は出演者全員が登場するエンディング。その後は演者が観客席に降りてきて、観客と握手をしたり撮影をする時間だ。
さっきまでステージにいた芸人が、自分たちのところまで降りてくる。その距離の近さに普通だったら親しみなどを感じるのだろうが、俺は逆だった。照明が落ちて暗くなったステージが、俺たちの座っていた客席のすぐ目の前にあった。本気で手を伸ばせば、あのステージに手が届く気がした。この舞台に俺も立ちたいと強く思った。
(構成:キンマサタカ)