人々の「科学リテラシー」が基礎研究を発展させる

坂田 そうやって何十年もの基礎研究があって、その先に「結晶スポンジ法」があったっていうことですね。そう考えると基礎研究って、すごく重要だなと思うんですけど、いかがですか。

藤田 そう信じるているから、ずっと基礎研究をやってるんです。世の中ではやっぱり「どれだけ役に立つか」「どれだけお金になるか」って物差しになるから、「基礎研究って全然価値がないね」って結論になりがちなんだけども、ゼロから1をつくるステップって、一番難しくて一番価値があることなんです。1ができてしまえば、そこからどんどん膨らませることができるわけだからね。

坂田 ええ。多くの基礎研究って、研究している段階では、その研究が最終的にどういった技術に応用されるか、というのが見えない状態でやっているので、なかなか世の中に発信しにくいですよね。実際、私もこの本の中で扱った研究っていうのは、全部実用化されているものとか、実用化が見えているものだけです。

ただ、そういった現状を考えると、将来、花開くかもしれない基礎研究の芽を摘んでしまうおそれもある。今は残念ながら、応用研究の段階になって初めて投資されていくような状況ですね。確実にあとで回収できる、という段階になってから投資するみたいな。

藤田 うん。だから研究費とか、お金が絡みだすと、どうしても基礎研究はちょっとひもじい思いをしなきゃいけないことになるんですけどね。だけど、自分がもしミュージシャンだとしたら、武道館とか満席にできなくても、世界トップレベルの本当にすごいミュージシャンが「おまえの音楽はすごい、こんなの聴いたことがない」と言ってくれたら、そっちのほうが……。

坂田 うれしいですよね!

藤田 だから、僕なんかはある意味、精神的には非常に満たされた状態でやってきて、最後にちょっと世の中の皆さんにも褒めてもらえるような仕事ができて良かったなと思ってるんですけど。

若い研究者たちは、これから大変だろうなと思ってね。ある程度の研究費がないとできないことはありますから、そういった状況を鑑みて支援をしてあげられるような立場に立っていかなければいけないな、というふうに思ってますね。

坂田 国や企業が投資するとなると、1つの力になるのは「一般の人の声」だと思うんですよ。ただ、一般の人にそういった声を上げるだけの力が今はないな、と私は思っていて。そもそもこういった科学技術とか研究者というものを知らないですから、声を上げることすらできない。

だから、まずは一般の人がこういった日本の研究であったり研究者を知って、長い研究の先に技術が生まれて、その技術で私たちの生活が豊かになっていることを知る必要があります。そして、その豊かな生活を保ったまま、今の地球や人間が抱えている問題を解決できるのは、もう科学技術しかないんだということを意識する。それによって初めて声が出せると思うんですよね。

それにはサイエンスコミュニケーターみたいな存在が必要で、私もそういった1人になれたらいいなと思って活動を続けてるんですけど。国民1人1人が科学の素養を身に付けるって、とても重要なんじゃないかなと私は実感しているんですけど、先生、どうですか。

藤田 科学リテラシーですね。いろんなことの判断を、科学的な根拠に基づいて行なうのは重要だと思います。特に最近はコロナやSDGsの問題があって、文系の人にも、もうちょっと科学を理解してもらわないとまずいんじゃないの?っていうふうに僕は思ってます。

あと、サイエンスコミュニケーションね。「科学ってこんなに面白いよ」と知らしめること。本当は僕らがやりたいんですけど、大学の先生たちはみんな忙しくてなかなかできない。そこを坂田さんのような人に代わりにやっていただけるっていうのは、すごくありがたくて。

坂田 ありがとうございます、藤田先生にそのように評価いただいてとても光栄です!

▲坂田氏は一般の人々と化学者をつなぐ架け橋的存在