理系も文系もお互いの素養が必要

藤田 文系の人でも科学を知るべきですよ、ということを世の中に言っていかなきゃいけないんじゃないかな。理系は文系の素養を、一方で文系は理系の素養をと。僕らは受験のときに理系と文系に分かれちゃってますけれども、国際的な場で自分たちの主張をしたりとか、いろんなことをするときに、相手の人たちの国の文化とか歴史も知っておかないとね。

坂田 確かにそうですよね。私も、できれば幼少期から科学に触れてほしいと強く願っています。

藤田 例えば、普段のコミュニケーション能力とかマネジメントとか、文章を書いたりとか、プレゼンをしたりとか、「こういうのは昔でいったら文系のカテゴリじゃないの?」っていうようなことが、理系の僕らにもめちゃくちゃ必要になってきて。理系の人間ってなんか勘違いされてて、地下に潜ってひたすら自分の専門性の高いことだけやっているって思われちゃうんですけども、文系の素養がないと務まらない。

坂田 なるほど、その視点は勉強になります。科学に広く興味を持ってもらうためにも、世に出ることは必要ですね。

藤田 逆のことも言えて、文系の人は理系の素養がないと、僕は今の時代、駄目なんじゃないかと思うんですよ。例えばコロナ対応を見たって、高校で習った指数関数を思い出して欲しいって言いたくなったり……。それから、SDGsで地球温暖化をみんなで考えるっていうのはいいんですけども、ほとんどは、例えば富士山が噴火したら、みんなでバケツリレーで消しましょうってレベルのことを言っていたりする。

理系の人間が文系の素養を必要とする、それと同じぐらい文系の人が理系の素養を持ってくれたら、コロナの対応だってもうちょっと頭の中でいろんなことをイメージして迅速な判断できるよね。

坂田 社会人になってしまったとしても、学び直しだったり、興味を持って「日本の最先端の研究ってどんなものがあるんだろう」って、本を手に取ってみたり、それでも十分いいと思います。

かつ、藤田先生みたいにご自身の研究で世の中を変えていったり、人の生活を豊かにしている研究者の姿を見ると、研究者になりたいなっていう子どもだって増えると思っているんですよ、私は。だから、小さいときから科学に触れさせるのは必要なことだなと思っていて。

藤田 そうですね。それには坂田さんの本も役に立ちます。特にサイエンスミュージアムみたいなところに置くと、息の長い本になるかなと。

坂田 そうですね。この本で私がこだわったのは「日本発」ということ。日本でどんな最先端の研究がされているのかですね。あと、研究自体が表に出ることは結構あるんですけど、研究者の姿ってなかなか表に出ない。だから、全ての章に「研究者の声」を入れたいと。研究者が何を考えてここにたどり着いたのかとか、どんな思いでいるのかを伝えるのが私のこだわりだったので。

そして今後は、全然世の中がまだ注目してない基礎研究。それを取り上げてみるとか、もうちょっと違った方向からも攻めてみたいなと思ったりしてますね。

▲これからも「いまだ知られざる基礎研究」の紹介に力を入れたいと語る坂田氏

プロフィール
藤田 誠(ふじた・まこと)
東京都出身。工学博士。東京大学卓越教授。有機化学、錯体化学を専門とし、物質の「自己組織化」をテーマに様々な研究を行なっている。中でも「結晶スポンジ法」はビールの「のどごし」の改良をはじめ、人々の生活に多く応用されている。2014年、紫綬褒章受章。国内外での受賞歴も多く、その研究が常に注目される存在。
プロフィール
坂田 薫(さかた・かおる)
化学講師。8bitNews「SCIENCE NEWS」担当、ネットニュース「SAKISIRU」では日本の最先端化学を紹介、わかりやすい解説でサイエンスコミュニケーターとしても活躍中。最新著書は『「家飲みビール」はなぜ美味しくなったのか?』(ワニブックス刊)。SNS:Twitter(@kaorukagaku)