英語圏の主流新聞は、中国政府による臓器収奪の調査結果を報道しているが、日本ではそこまで報道されてはいない。ウイグル人弾圧と関連して、現在も続く中国の生体臓器移植ビジネス。中国分析のベテランジャーナリストであるイーサン・ガットマン氏が指摘するのは、自由主義社会にも“共謀”するグループがいるという事実。

収容所から出るには2つの道しかない

私は、欧州とアジアに住む新疆ウイグル自治区の収容所からの生還者に、幅広くインタビューしてきた。

収容所から出所する者は、2つのグループに分類できる。1つめのグループは、18歳前後の若者だ。“卒業”の発表は通常、昼食時にあり、中国東部の工場に労働者として送り込まれる。

2つめは25歳から35歳で、平均28歳のグループだ。中国の医療機関が臓器収奪の対象として好む体格を備える年齢層だ。収容所で行われる身体検査のあと、血液検査の結果に基づき、チェックマークなどの識別情報がつけられ、深夜に密かに連れ去られる。毎年このようにして、2.5~5%が収容所から消えている。

臓器収奪のために収容所から消える者の最低値を算出すると、収容者数100万人のうち、年に2.5%、つまり年間最低25,000人が収容所から消えている。1日に68人だ。この数字を2倍にしたものを最高値とする。

この説明だけでも、継続性を感じていただけるかと思う。2005年に中国政府は、死刑囚からの臓器収奪を認めたが、無実なのに収監されている人々からの臓器収奪、生存中の身体からの強制臓器摘出は否定した。

しかし、医師や護衛は(1995年に遡って)、このような手順が踏まれたことを私に告白している。生存中の身体からの強制臓器摘出は、死刑囚から“無実の囚人”へと拡張していったのだ。

▲カシュガル旧市街 出典:Dayo / PIXTA

法輪功修煉者をカルトと呼んだローマ司教

これには、自由主義社会の医療界の対応にも問題がある。

自由主義社会は、中国の臓器収奪の危機に際して、(一)否定、(二)意味論的な駆け引き、(三)中国側の言葉をナイーブに受け入れていることが特徴だ。ここで「なぜ?」という問題に突き当たる。3つの理由を挙げたい。

第一の理由は、自由主義社会は精神的な信念、特に法輪功の信念をあからさまに軽視している。この例として2017年に国際移植学会の代表者とローマ教皇庁科学アカデミーの院長、ソロンド司教などの側近が、中国政府によって厳選された病院を視察した際の言葉を引用したい。「法輪功は政治目的のために話を捏造した――処刑され臓器を摘出された法輪功修煉者(編注:法輪功を学習し、実践する人)がいたという証拠は、1つも目にしていない――カルトに我々の邪魔をさせてはならない」

遠巻きながら、ヒューマン・ライツ・ウォッチが発表したウイグル人へのDNA検査に関する優れた報告書にも、似たような共鳴が窺えた。DNA検査は技術的には監視用であるとされている(言及はなく、DNA検査キットにもよるのだが、組織型の照合もできる場合、データは臓器収奪に用いられる)。

不思議なことにヒューマン・ライツ・ウォッチは、同様に重要な事実、つまりウイグル人一人ひとりが血液検査されたことに一切触れていない。臓器収奪の準備段階で、適合を確認するための手始めの検査なのにだ。

法輪功に対する偏見からか、ヒューマン・ライツ・ウォッチが10年にわたり避けてきた無実の人々からの臓器収奪の問題を、彼らが最終的に認めなかったおかげで、中国政府は問題の存在を否定することができ、臓器収奪に直面するウイグル人の脆弱な立場はさらに悪化した。

▲サン・ピエトロ大聖堂 出典:gandhi / PIXTA

第二の理由は、水面下で中国での移植制度の成長を利用しようとするゴールドラッシュが起きている。生体接着剤・免疫抑制剤・ロボット工学、そして1年前までは携帯型ECMO(体外式膜型人工肺)装置も、この領域に含まれていた。

第三の理由は、中国本土は自由主義社会の医療制度を次のように理解している。自由主義社会は弱い。自由主義社会の切望する高官レベルの接触、ステータスを我々は提供できる。自由主義社会は我々を怒らせ、不快にさせ、寛容ではないと思われることを恐れる。そして何より、自由主義社会は我々が支配する世界での経済的な大チャンスを逃すことを恐れる。だから、取り残されないように、ほぼすべてを正当化する。

中国共産党はまた、自由主義社会が“共謀”するためには、理想的なカバーストーリーが必要であることも認識していた。ほぼすべての国外の関係者は、より良く、より公正な中国のイメージを構築していくうえで、自分たちの行動が欠かせないと確信した。

つまり、中共の求めるグローバルな反応を得るために、グローバルに陰謀を張り巡らせる必要はまったくなかった。中国本土の医学界の権威者たちが与えた共犯者への報酬は、数多くの関係者それぞれが受け入れやすいように、特別に編み出されたものだった。

関係者とは、バチカン市国の教皇庁科学アカデミー、ハーバード大学の移植学会、シドニーのウェストミード病院、ベルリンの心臓外科医の一派、ジュネーブの世界保健機関(WHO)、ロンドンのアムネスティ・インターナショナル事務局、そして日本を筆頭とする世界各地からの渡航移植者に及ぶ。

このような多様なグループは、世界共通の一つの前提条件のもとで共犯者となった。それが、臓器を収奪される犠牲者グループの非人間化である。

※本記事は、イーサン・ガットマン:著/鶴田(ウェレル)ゆかり:訳『臓器収奪――消える人々』(ワニ・プラス:刊)より一部を抜粋編集したものです。