桂文枝、間寛平からの忘れられない言葉

――新喜劇のアキさんが、新喜劇ファンはもちろん、これまで新喜劇に馴染みがなかった層にも広がっている理由がわかった気がします。これまで芸人の先輩から頂いた言葉で、心に残っている言葉はありますか?

 

アキ 桂文枝師匠なんですけど、僕らがまだ若手の頃、自分たちのネタでオカンがでてくるコントがあったんです。それを舞台袖で見てくださってて、終わったあとに「あのコント、しょっちゅうやってるのか?」って聞いてくださったので、恐る恐る「はい、昔からやってます」って答えたら、「おもろいなあ、一生、飯食って行けるな」って言ってくださったのは、もう震えるほどうれしかったですね。

――それは感動しますね…!

アキ まだこの世界で食っていける保証がない時代に、文枝師匠みたいなすごい方からそう言ってもらえたのは本当にうれしかったですね。

――個人的な話で恐縮なのですが、水玉さんのネタって、いわゆるあの当時の大阪吉本の芸人さんのコントとは一線を画してたと思ってて。当時はボケとか、構成がしっかりしている系のコントが全盛だったと思うんですけど、水玉さんのコントはもっと肉体的で、野生ぽさがあったから、好きでよく見てました。

アキ ありがとうございます。僕もアクションとかは太秦で相当揉まれましたし、ケンも自衛隊にいましたしね。そこを広げていくしかなかったんですけど、そう言ってもらえるのはうれしいし、今につながってるかなと思いますね。あと、最近なんですけど、すっごく感動したのは、「ら」のひと言なんですよ。

――「ら」ですか?

アキ そう、「ら」。この前、(間)寛平師匠が言わはったんです。立ち話だったんですけど、寛平師匠と僕と、あと新喜劇のスタッフさんがいたのかな? そこでの雑談で、それぞれの新喜劇の話になって、藍ちゃんの新喜劇はこうで、すっちーの新喜劇はこうでって、いろいろ話してたんですけど、寛平師匠が僕に向かって「まあ、俺らの新喜劇は自由にやってるからな」と言って、僕は“あ、「ら」ってことは僕のこと入れてくれてるんや”って思って。

――うわー、いい話ですね…!!

アキ ですよね!?(笑) すごくうれしかったんですよ。たった一文字やけど、自分のことを認めてくれてる感じがあって、そのときもうれしかったけど、話してる今でもしみじみうれしいです。寛平師匠って本当に優しくて、遅刻してきた団員がいても「なんで遅れたん? 寝てたん?」って優しい感じで声かけるんですよ。

もちろん、きちっと締めるときは締めるんですけど、基本的にはすごく優しい。この業界って、めちゃくちゃ上下厳しかったり、ピリピリしてたりしがちなんですけど、寛平師匠の周りはいつも優しい空気があって、見習いたいなと思ってます。

相方・ケンへの想い

――例えば新喜劇の舞台で、どなたかにテクニックのアドバイスをもらったことってありますか?

アキ いや、ないですね。基本、この業界は教えてもらうというよりか、自分で考えて気づいていくしかないなって思ってて。今田さん、東野さんの新喜劇に出させてもらってるときに、台本を読んで“え、これで大丈夫か?”と思ってても、台本がウケたらどんどん乗っけて重ねていかはるし、スベってもその空気をうまいこと料理しはるし。

“そっか、テレビで何十年も活躍しはるって、こういうことなんやな、天才なんや”って気づいたんです。もちろん、努力も驚くくらいしてはると思うんですけど、天性のものって教えてもらえることでもないし。だから、僕は感じたことを忘れないうちにメモして、家に持ち帰って考える。

――アキさんも努力されたんですね。

アキ 努力というほどのものじゃないですけど、ウケた、スベった、その場の一喜一憂だけでは残っていけないです。なんでウケたか、なんでスベったか、じゃあ次に同じようなことがあったら、こう言ってみようとか、そういうことの積み重ねですね。舞台で学んだことといえば、感動したことを忘れないようにした、ということです。

――今回の座員総選挙で1位になった記念公演が、11月29日(火)から12月5日(月)まで大阪・なんばグランド花月で開催されます。その意気込みコメントで印象的だったのが「僕と作家さんとで、台本・演出をしあげていきたいと思っております」という言葉です。ここに“作家さん”という言葉を入れるのが、アキさんらしいなと思いました。

アキ ありがとうございます。でも、特に何も考えずに言ってただけなんですけどね(笑)。ただ、ずっと一緒にやってくれてる方々は仲間やと思ってるんで。野球でもピッチャーばっかりおっても試合が成立しないじゃないですか。オープニングの第一声だけがセリフの子も、めちゃくちゃ大事やし。

僕、ルミネで自分が座長のコントがあったときに決めていたことがあって、どんな後輩の子でも「1公演終わったら気になったところ、ダメ出しでもええから3つあげてください」って言ってたんですよ。そしたら、みんな意識を持ってやってくれるし、自分が出てないところも見てくれる。それまでは自分の出番が終わったら楽屋で携帯イジってたような子も、袖で見てくれる。

気になったことを言ってもらって「あ、そっか! それは気づかなかったわ、ありがとう」ってことも多かったし、「あのボケ、いらないんちゃいます?」みたいな質問だったら「なるほどな。でも、あのボケはな、ここがちゃんとフリになってて……」って説明ができる。誰一人としてモヤモヤを抱えたまま新喜劇に携わってほしくないな、と思っていたんです。

――内容を活性化させるには、一番上の人がそうやって分け隔てなく寄り添うのが大事なんですね。

アキ この前も、辻本さんがコロナに感染して出られへんってなったときに、前の日に「アキさん代演お願いします」って言われて。辻本さんの新喜劇っていったら、それを目当てに来る方がいるくらいの人気公演ですよ。自分には自信はあるけども、同時に“うわ、どないしよ”って気持ちもあるわけです。そこでも周りの若い子が助けてくれましたね。

稽古のときに「辻本さんは、この芝居ではとにかくボケはるんで、アキさんドンドンボケていきましょう」「アキさん、あのボケあったじゃないですか、あれ好きなんで入れましょうよ」とか、「この部分、アキさん違和感あるんやったら変えましょう」とか言ってくれて。これも普段から言いやすい空気を作れてないと言ってくれないと思うんで、改めて“あ、僕のやってたことは間違ってなかったのかな”と思いましたね。

――これをきっかけにアキさん座長の新喜劇が関西圏だけじゃなく、全国で見られたらいいなと思います。あと、これは個人的に聞きたかったことなんですけど、水玉れっぷう隊として活動されるのは、この先ありますか?

アキ コンビってのはいろいろあると思うんです。でも、僕はケンのことを“めっちゃええ奴”というのがあって誘ってるんで。売れようが売れまいが、この人とだったら“ずっと一緒に仕事をしていきたい”“人生を共にしていきたいな”というのがあって、コンビを組んでるんです。だから、時期が来たらやると思いますよ。ケンって、若い頃から宮本亜門さんの舞台に選ばれたり、三谷幸喜さんのドラマに選ばれたりする奴なんですよ。この前のLIVE STANDでも剛(中川家)と、河本(次長課長)と一緒に歌ったりとか。

――最近だと、abemaの『チャンスの時間』の「パチフェッショナル」も面白かったです。

アキ ね、おもろかったですよね。あれは人間力なんですよ、僕は到底かなわないし、真似でけへん。僕が惚れたのは、ケンのそういうところなんですよ。だから、僕がもっと新喜劇で地位を確立して、ちゃんとケンの席を用意して「今、おじいちゃん役が少ないから、ケンやってくれへん?」っていうのが、僕としてはあるんです。

そこで、ケンがどう答えるかはわからないですけど、でもホンマに歌うまい、踊りもできる、演技力もある。人間が面白い。きっかけさえあれば引っ張りだこや思うんですよ。だから、いつか時期が来たらって思ってますね。


プロフィール
 
アキ
生年月日:1969年8月22日
身長/体重:174cm / 62kg
血液型:A型
出身地:大阪府岸和田市
趣味:スポーツ / 空手 / 野球 / ダンス / 格闘技
Twitter:@mizutamareppu、Instagram:mizutamareppuaki