家族に反対された『TVチャンピオン』出演
ホテルマンとしての道を諦めた岡﨑さん。そんな彼女の眼に飛び込んだのは、有隣堂の支店の求人募集の広告だった。
「小さい頃から文房具が好きだったし、やってみたいな、と思って応募したんですけど、なんの返答もなくて。じつはそのとき、募集していたのが荷物の持ち運びが主な仕事で、力仕事だから女性はいらなかったみたいなんです」
そこから随分経って、応募していなかった本店から岡﨑さんに電話がかかってきた。
「お店の外で、ワゴンで文房具を売るバイトを2週間だけ募集している、そこはどうですか? と言われて、“ぜひ!”と。実際にやってみたらすごく楽しくて。でも、2週間で終わっちゃうのか……って寂しい気持ちでバイトをしていたんです」
その寂しい思いを、一緒に働いていた人に打ち明けると“え? 続けてくれるの?”とびっくりされたそう。
「採用係から売り場に来ていた情報がどこかで行き違ったのか、期間限定でしかできないバイトだと思ってたみたいで、そんなに文房具が好きで、やる気があるなら話してあげるよ、と言ってくれて、晴れて期間限定から普通のバイトに昇格したんです(笑)」
そして、アルバイトから正社員となった。テレビ東京系『TVチャンピオン』の「文房具王選手権」に2回出演し、どちらも準優勝だったことから、有隣堂のYouTubeチャンネル『有隣堂しか知らない世界』で「文房具王になり損ねた女」と二つ名がついているが、そもそも番組に出ることになった経緯はなんだったのか。
「そのときの店長から“優勝したら10万円もらえるよ”とかって言われて。でも、TVチャンピオンって知らないまま、“10万円もらえるんだ”って思って、“わかりました”と答えて。安易ですよね(笑)。
そのあとに“え? TVチャンピオンなの?”って(笑)。でも、はいって言った手前、予選には行かないとなと思って。受かるなんて思ってなかったんですよ、文房具の知識がすごい方たちが集まってくるわけだから。そしたら受かっちゃって。“うわ、テレビ出ちゃうんだ、どうしよう”って落ち込みました(笑)」
“たぶん、女性で書店員で文房具に詳しい、というのが、番組的には珍しかったのかもしれないですね”と岡﨑さんは苦笑交じりに答えた。
「家族にも反対されて、自分から出たいって言ったわけじゃないのに、なんで……って(笑)。最後は“会社のPRになるから”で押し切られる感じで……。本戦は、そこそこ答えられたんです。ほかの回答者にも私より詳しい方がいたと思うんですけど、 最終ラウンドまでは勢いだけで早押ししていくことが何回かあり、周りにプレッシャーを与えてしまっていたように記憶しています。
優勝した方は、とにかく知識が格段に上で、今は文具を開発しているような方なので、結果については仕方なく、今となっては出てよかったなと思いますね」
TVチャンピオンに出たのが、岡﨑さんが入社して15年ほど経った頃。それまでは、有隣堂でどのような仕事をしていたのだろうか。
「文房具に限らず、いろいろなものがあったから、すごく楽しかったですね。小学校の教材や児童書もあったから、私の興味あるものばかり。ちょうどその頃はレジをやっていたんで、売り場の全てを見渡せて、幸せでした」
岡﨑さんが企画した一風変わったフェア
好きなものに囲まれて仕事をしていた岡﨑さん。その仕事ぶりを認められて、TVチャンピオンに推薦されるまでに至るのだが、どのような仕事ぶりだったかを尋ねると……。
「基本的には、前に出て意見をするタイプではないので、怒られない範囲でやって、怒られたり止められなかったら、どんどんそれを広げていく感じでした。あとは、店内で定期的にフェアがあるんで、そこでちょっと人とは違うことをする、ということを意識していたのかもしれません」
ちなみに、どんなフェアを行っていたのかを聞いてみると。
「そのときに好きなものをフェアにする。お弁当箱フェアをやったときは、森羅万象、世の中に出ている全てのお弁当箱を揃えようという意気込みで企画しました。
あとはペンケース、筆記用具の担当をしているときに、ペンを買っても、それを収納するものがないと意味がない! と思って。ペンケースフェアを企画しました、店内にも<ペンケースの品揃え県内一>って貼り出して。世界一ではないけど、県内一という言葉に偽りないくらいは揃えました」
ただ、自分の好きなことをやっているだけではなく、きちんと売上も出していました、と岡﨑さんは照れくさそうに、でも胸を張る。
「フェアで陳列すると、そのぶん他の商品が売れなくなりますから。そこでちゃんと結果を出さないと、また次のフェアをやらせてもらえない。そこの経験が岡﨑百貨店につながっているかな、と今になって思います」
ここまで文房具について語っていただいたが、そもそも、岡﨑さんが思う文房具の魅力とはなんだろうか。
「日常を楽しむもの、と思ってます。値段もピンキリあるけど、基本的には気軽に手に取って買えるものなので。ペンでもノートでも、いつも使っているものがあると、気持ちがいい。生活を彩ってくれるものなんじゃないかなって」