好きな仕事でも得意なことばかりじゃない

文房具に対する飽くなき探究心は、現在のバイヤーとしての仕事にもつながっているのではないかと伝えると、岡﨑さんはこう答えた。

「バイヤーの仕事というと、発掘してくるイメージがあると思うんですけど、いろいろな仕事があるんです。私も、バイヤーの中だと得意な仕事と苦手な仕事がある。商品をただただ探してくるのがバイヤーの仕事じゃないんですね」

意外だったが、たしかに好きなことを仕事にしたからといって、そのなかの作業が全て得意で好きなこととは限らないのはうなずける。

「私は、いろいろな物事をリスト化したり、その商品の良いところをポップなどで簡潔に目を引く感じで書くのは苦手意識があって。でも、ほかの得意な人が、うまくできない私を手伝ったり、補ってくれるんですよね。そのぶん、私は得意なことで力を発揮しようと思ってます」

「適材適所」。これはバイヤーに限ったことじゃなく、会社やスポーツチームも、ある種の集団やチームで行われることに通ずるなと感じた。『有隣堂しか知らない世界』では、ガラスペンを強く推していた岡﨑さんだが、現在の推しはあるのだろうか。

「今は蓄光ですね。光を蓄えて、光照射を止めても発光するやつで、ペンとかテープとかが有名ですけど、今は折り紙とか紙粘土とかもあって。私、仕組みにもワクワクするんで、この蓄光はすごくワクワクします。防災とか、暗くなったときの安全のためにも使われるんですけど、やっぱり光るから面白い、このバランスがいいなって思います」

文房具について語るときの岡﨑さんはとても楽しそうで、こちらも微笑ましくなる。そんな推し文房具がたくさんある岡﨑さんだが、そこまで陽の目が当たってない推し文房具もあるそうで……。

「『クルトガ』って、三菱鉛筆さんが出しているシャープペンシルなんですけど、自動で芯が回転するから、書き続けても芯が尖り続けるっていうすごい技術なんです。そのために作られたクルトガ専用の芯もあって、その芯が外側が柔らかくて、中が硬い構造になってて、まさにクルトガのための芯だったんですけど、廃盤になってしまって、残念です」

“海外に比べると、日本の文房具の発想力、技術力はすごい”と岡﨑さんは語る。

パイロットコーポレーションさんの『瞬筆』って筆ペンは、宛名書きをしていてもにじまないようにできているんです。この速乾の技術は、例えば左利きの人に当てはめても使いやすいようにできています。こういう日本ならではの気遣いは、文房具を進化させているように思います」

文房具と文房具を愛する方々への愛

岡﨑さんは“自分の好きなことを追求しようと思っていたら、全く別のアプローチから自分のことを知ってくれた人が多くてうれしい”と明かす。

「TVチャンピオンに出ることを渋っていたときに、その頃の上司から“こういうところで活躍するのも、会社に対するひとつの貢献じゃない?”って言われて、そのときはうまく飲み込めないところもあったけど、そうかもなって。例えば、今もYouTubeとかに出るのは、自分の得意分野ではないけど、喜んでくださる人がいるかもなと思ってます」

岡﨑さんは、YouTubeに出演するようになって、うれしいことが増えたと笑顔で語る。

「お手紙をいただけるようになったことです。大人になってから、手書きの手紙ってあまり貰わないじゃないですか。手紙を書くのってすごい労力だと思うんです。それに今はメールもLINEもあるし。でも、感想を書いてくれたり、“岡﨑さんに選んでもらったペンで書いてます”とか書いてあると、すごくうれしいですね」

最後に、今後の目標や野望について話を聞いた。

「この前も、文具女子博(日本最大級の文具即売イベント)で立たせてもらったときに、“行きました!”“次は絶対に行きます”“こんな商品があるんですね”とか言ってもらえると、じゃあ次はまた目新しいものを紹介したいなって思うので、「岡﨑百貨店」もドンドン規模を広げていきたいし、一点ものも取り扱いたい。

あとは、神奈川の企業さんとコラボしたり、ゆくゆくは横浜に行ったときにお土産として選ばれるような存在になりたいですね。あとわざわざ遠方から来てくださる方もいらっしゃるので、そういう方に向けて、「岡﨑百貨店」の全国巡回展も夢ですね」

有隣堂のYouTubeチャンネル『有隣堂しか知らない世界』では、「文房具王になり損ねた女」という二つ名のある岡﨑さんだが、文房具、そして文房具を愛する方々への愛情は、文房具王という肩書きにふさわしいものだった。

 

岡﨑百貨店では、不定期でパンの販売も実施!
【概要】
・鎌倉「キビヤベーカリー販売会」
・内容:自家製酵母のパンの販売
・期間:2022年11月26日(土)11:00~(パンは数に限りがございます。なくなり次第終了)

STORY STORY YOKOHAMAのHP:https://www.yurindo.co.jp/storystory-yokohama/
プロフィール
 
岡﨑 弘子(おかざき・ひろこ)
有隣堂 事業開発部商材開発・店舗プロモーション課所属。有隣堂で4年間アルバイト経験後、1990年入社。文具担当として店舗勤務24年を経て、本部で文具・雑貨仕入れ担当を8年。アルバイト勤務時代も通して、ずっと文具・雑貨に触れる仕事に携わってきた。YouYube:有隣堂しか知らない世界