100人に善意を振りまけば1人ぐらいは返してくれる

意識していたのは「信頼できる人」になることだ。

佐々木 「よくいるじゃないですか。売れてくると、いわゆるゴーストライターに書いてもらって、似たような本を大量に粗製乱造する人が。そんな人にはなりたくない。売れる売れないは別としても、わかっている人の評価に耐える仕事をする。それをここ10年ぐらい信条にしています」

書籍の出版と平行して、Twitterで「キュレーション」も始めた。前出の『キュレーションの時代』を書くにあたり、自分でも実践しようと2010年頃からスタート。毎日ニュース記事を佐々木目線で約10本ピックアップして紹介するというもので、現在にいたるまで、ほぼ休みなく毎日ツイートしている。

「ちゃんとした記事を紹介することが信頼度の裏打ちになる」と、ここでも大事にしているのが「信頼」。その結果として、フォロワーが増え現在は約80万人。影響力を増やし企業から思わぬ広告案件が舞い込むなど、収入面でもプラスに働いている。

目の前の収益に惑わされず、地道に信頼の種をまいておけば、いつか実を結ぶ。これまでの書籍1冊1冊が、1ツイート1ツイートもその種と言える。

佐々木は「善意を振りまく」という表現もした。

佐々木 「ひとつ例をあげると、 大企業ではない若いNPO団体やスタートアップからトークショーの依頼が来ることがあるんですが、僕はお金をもらわないでやるようにしているんです。これって善意なわけです。100人に善意を振りまいておけば1人ぐらい返してくるかもしれないし、それで十分ペイするかなという発想です」

若い世代ともフラットに付き合う。年上だから偉いという発想もない。

佐々木 「テクノロジーをライフワークにしているからじゃないでしょうか。テクノロジーの流れはとても速い。この業界を取材していると、年を取っていることのアドバンテージがないということをすごく感じるんです」

30代でも「老害」になる可能性がある

30代~40代のニュースクランチ読者にも、メッセージをもらった。キャリアで「土壇場」を迎えることも多い年代だ。

佐々木 「この年代になってくると、今までの経験をまっさらにして何かに挑戦するのは難しいんじゃないかと思います。逆にそれまでに積み重ねたものが生きてくる。僕は39歳で新聞社を辞めて、42歳でフリーになりましたが、取材力や原稿を書くスピードなどに記者時代の基本動作が生きました。積み重ねることは重要だなと思います」

一方で「老害になるな」とも。佐々木が定義する老害とは単純な年齢ではなく、自分が若い頃に覚えたルールとかやり方に固執して、新しいやり方・知識・流儀についていくのを良しとしないマインドを持った人のこと。だから、30代でも老害になる可能性があるという。

また、とくにインターネット空間に多くの老害が現れていることを危ぶむ。

佐々木 「2000年頃から、ずっとインターネットの世界をウォッチしていて。あの頃、2ちゃんねるにいたナナロク世代が今40代後半になっていて、5ちゃんねるで若者ディスをしているんです。Twitterもそう。例えば、電動キックスクーター解禁のニュースとかに、“すぐ危険だ、危険だ”とネガティブにしたがる。これは老害ですよ。新しいものが出たら、もっと面白がらないといけないのに」

新しいものを億劫がらずに面白がってみる、やってみる、というのも佐々木の姿勢だ。最近では、可能性を感じているという音声メディアでの配信も始めた。これも最初は収益度外視で、毎日配信しているという。佐々木はしたたかに今日も種をまく。


プロフィール
佐々木 俊尚(ささき・としなお)
ITジャーナリスト。1988年に毎日新聞社に入社し社会部記者として警視庁捜査一課を担当するも、30代の若さで転職。2010年頃からスタートしたTwitterでの「キュレーション」が反響を呼び、そのフォロワーは80万人以上にものぼる。Twitter:@sasakitoshinao、voicy:毎朝の思考