コンビニや飲食店などでのバイトテロ、回転寿司チェーン店での外食テロは経営者にとって頭を悩ませる問題だ。25年以上もステーキハウスを経営している元プロレスラーの松永光弘氏が、これまでの経験をもとに客からもスタッフからも愛される店づくりを教えてくれました。

※本記事は、松永光弘​:著『デスマッチよりも危険な飲食店経営の真実』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

飲食店のアルバイト確保は難しい

これから飲食業をスタートさせようと考えている人たちに、ひとつ覚悟しておいてもらいたいのが、人材確保の難しさだ。

バイトの面接をしていて感じるのは、さまざまな職業がある現在、飲食店でのアルバイトというのは、言葉は悪いかもしれないが、彼らにとって「最下層」であって、けっして進んでやろうと考えるようなジャンルではなくなっている、ということだ。

今ではすっかり慣れたが、最初は驚いた。面接の約束をしていた人がすっぽかす、というケースが何度も繰り返されたからだ。

私たちの世代ではちょっと考えられないことだから、いつかやって来るだろうとずっと待っていたが、連絡もなく、そのまま終わってしまうというパターンがとにかく多い。

これはオーバーではなく半数の人が来ないのだ、調べてみたら、今の若い子たちは効率よくバイトを決めるために、1日に何軒もの店と面接の約束をするのだそうだ。たとえば5軒受けて、3軒採用されたら、その中からもっとも楽で稼げそうな店を選んで、そこで働くのだ、と。

ちなみに面接をすっぽかすのは、午前中の面接で「この店でバイトしよう」と決めてしまったら、午後に約束している約束をすべて白紙にしてしまうケースだ。

▲飲食店のアルバイト確保は難しい イメージ:sasaki106 / PIXTA

ウチの店では「じゃあ、明日から来てください」とユニフォームのTシャツまで渡したのに、そのまま音信不通になり、一度も出勤しなかった子がいた。おそらく、そのあとに面接をした店のほうが条件などもよくて、そちらで働くことを選択したのだろう。

こちらとしては仕込みと営業時間のあいだに、わざわざ時間を作って待っている。しかし、彼らにはそれがどれだけ負担になることかもわからないんだろうし、それすらも理解できていないなら、ウチで働くことになってもきっと長続きはしなかっただろうな、と思ってあきらめるようにしている。

それでもウチが困らないのは、いま働いてくれている従業員の定着率が高いので、あまりバイトを募集する必要がないからだ。

イチから店を立ち上げるときに店も決まって、メニューも決まっているのにスタッフが足りない、などということが起こりかねないから本当に怖い。

私はアルバイトを怒ったことが一度もない

先ほどチラッと書いたが『ミスターデンジャー』の従業員の定着率は異様なまでに高い。よく同業者にも驚かれるぐらいで、いちばんの古株はオープン時から働いているから、もう24年目。次に長いスタッフも21年目。いまは8~9人の従業員に働いてもらっているけれども、短期間で辞めてしまう人はほとんどいない。

それは私が「従業員のための働きやすい環境」に気を遣っているから、という部分が大きいのかもしれない。「松永さんは従業員に優しすぎる」という人もいるぐらいで、たしかにアルバイトで私に怒られた人は、今までひとりもいないと思う。

もちろん、何かあったら妻が注意はしている。それを見ているから、そこに経営者まで加わって、ふたりで責めるような感じになったらよくないなぁと思って、私は怒らないようにしている。

これはじつは高校時代の相撲部の監督から学んだことでもある。監督は負けても、絶対に怒らなかった。なぜかと聞いたら「負けたことをあれこれ言っても仕方がない」と言う。たしかにその通りだ。

たとえば皿を割ってしまったとする。わざと割ったのなら、それは怒らなくてはいけないけれど、さすがにそんなことをする人はいないだろう。

だったら怒っても仕方がない。割れた皿が元に戻るわけでもないんだから、怒鳴っている分だけ、お互いにその時間が損じゃないか? オーダーを間違えたとしたら、怒るより前に、お客さんのために正しいオーダーの料理を1秒でも早く提供するように厨房が動くほうが先だろう。

そして、なによりも私がスタッフを怒ることで、店の空気は間違いなく悪くなる。お客さんをお迎えする場所なのだから、ムードが悪い空間なんて絶対に作ってはいけないと思うし、そういう考え方をしはじめたら、本当にアルバイトを怒らなくなった、というか怒る理由なんて、そうそうないことに気がついた。