ビーチのネイマールと勝負!
そんなビーチで僕も毎日サッカーをしていました。
まず、ビーチにある屋台でココナッツを買います。そして各々飲み干すと、それを2つ置く。その間がゴールです。反対側のゴールを、また別の観光客がお腹をタプタプにしながら作っています。
適当にチーム分けをして、シャツ着てるチームと、シャツ脱いでるチームで試合が始まります。ココナッツを売っていた店員も混ざってます。お前は4つ売っただけで仕事終わりなんだな。
ブラジルのビーチサッカーは、日本の遊びのサッカーとリズムが全く違います。ボールを持ったらとにかくドリブル。時間をかけたらディフェンスが集まってくる、なんてことはほとんどなく、一対一を周りは見守る感じ。
僕はドリブルがド下手なので、奪ったらなるべくいいパスをおくるよう心がけました。そしてディフェンスでは、一番上手そうなやつのボールを奪いにいくことにしました。
その男は褐色でガリガリ。そのビーチでは『ネイマール』と呼ばれていて、とにかく超絶足技。面白そうだったので、次こいつにボールが入ったところにガツンと奪いにいくと、彼はそれをいなしてバックパスをしました。
逆サイドで動いているボールを目で追う僕と、ボールなんか見ずにこっちをじっと見てるネイマール。
僕が視線に気づくと、彼はニタニタと笑いながら「マルカ・ミ?」と聞いてきました。
たぶん「俺をマークすんの?」って感じだろうから「シー(スペイン語でイエス)」と答えると、彼は馬鹿にしたように笑い、次に彼にボールが入った瞬間、こっちめがけてボールを高速で跨ぎながら接近してきました。
そしてドリブルをしながら、手をピストルの形にし、僕のこめかみに突きつけたのです!
その間も足元はロナウジーニョのような高速跨ぎ。
「え? ドリブルでこ〇すよ」ってこと!?
サンバが頭の中に流れるくらいには、日本じゃ絶対見られないブラジルすぎる光景。
なにこれ、ナイキの新CM?
僕は必死で食らいつき何度か一対一をしました。
こちとら大学でJリーガーになるような相手とも試合をしてますから、縦に抜いてクロスもない、抜くと見せかけてスルーパスもない、僕の背後を取る気しかないやつにはそうそう抜かれません。まして、ここはビーチですからディフェンス有利。
さすがに完封すると、彼は何度も「ファウルだろ!」と叫びました。
そんなところまでめっちゃネイマールじゃん。
そして、その日から『守備強くて、運動量豊富で、呼べばすぐパスを出してくれる日本人』はカガワと呼ばれ、「俺のチームに入ってくれよ」と、ブラジルのビーチで唯一の戦術的な駒として重宝されたのでした。