自分で考えて行きたいほうに行けばいい
――フリーランスになって、いろんな進む道があったと思いますが、どんな働き人になりたいと思っていましたか?
竹谷 イメージしたものをちゃんと作れる職人になりたいと思っていました。それに、雨宮さんはデザインの大枠が守られていたら、OKなことが多くて、だんだんデザインも任せてくれるようになったので、自分でもデザイン画を描くようになりました。そのおかげで成長できたと思って感謝しています。
――自分のスタイルはどう確立していったんですか?
竹谷 とくにそれを意識したことはなくて……、依頼されたものに対して、期待に応えるためには予想を裏切らないといけないので、相手の予想を裏切るようにしたいな、と思いながらやってました。
――予想を裏切るって、一転して怖くもありますよね。
竹谷 そうですね、最近はうまくいくことが少ない気がします(笑)。たとえば、庵野さん関係だとほぼ無理ですね(笑)。庵野さんのマニアックなオーダーに対応するのも楽しいんです。何か狙いがあるのがわかるし、映画は脚本があって、演出もあって、それにデザインが乗っかっているから、それに合致するのが一番ですし。
――造形家として仕事をしてきたなかでのターニングポイントを教えてください。
竹谷 ターニングポイントって特にないんですよ。というか、地道にやってきたからターンがないんです(笑)。今まさに「そういえばターンしてないな」と思いました。
――(笑)。「好きを仕事にする」ことに対してどう思いますか?
竹谷 僕はたまたま好きなことを仕事にできていますけど、やっぱり仕事をくれる人がいないと成立しないので、「人との出会い」は大事にしたほうがいいなと思いますね。今はインターネットもあって、個人でいろんな発信ができるだろうし、自分が“こっちだ!”と思うなら、ためらわないほうがいいと思います。「世間一般的にこうだから」「親がそっち行けって言うから」とかではなく、自分でよく考えて、行きたいほうに行けばいい。
もちろん、金銭的なことや環境などにもよりますけど、そのなかで最大限ベストを尽くす。コツコツ続けていると、溜め込んだものって必ず何かの形になりますからね。
――「好き」を仕事にするのは難しいと思いますか?
竹谷 難しいとは思いませんが、完全に「好き」なことだけだと、お金をいただいて食べていくのを維持するのが大変かもしれませんね。これは個人的なことですが、依頼いただいて作るのも楽しいんですけど、オリジナルのものもやりたいと思っていて。でも、仕事が忙しいとできないし、最初は誰かがお金をくれるわけでもないから、そればかりやると食べていけないのがジレンマですね(笑)。
“何かやってみようかな”と思うきっかけになれば
――『ジブリの大博覧会』で立体展示物を発表されました。『ナウシカ』は全世界にファンがいる作品ですが、プレッシャーはなかったんですか?
竹谷 自分がネットを見るんなら気にしちゃうかもしれないですけど、資料を集めるくらいで……他はあまり見ないので、そのあたりは鈍感かもしれないですね。
――『腐海創造 写真で見る造形プロセス』を拝見すると、設定にはない妄想の部分を想像して楽しんでいらっしゃるのが伝わりました。
竹谷 あんな大規模なものは初めてだったので楽しかったです。最初の妄想ラフより、だいぶ整理はしたんですけど、それでもキリがなくて……。 僕の考えたひな形を専門家の方々が作ってくれるわけですよ。大変恐縮でしたが、皆さんとキャッチボールしながら作ることができたので、本当に楽しいだけでした。
――「風使いの腐海装束」の長銃など、細かいディテールもすごかったです。
竹谷 いつも一緒に仕事をしている山口隆さんが鉄砲に詳しいので、加わってもらったんです。じつは、弾の大きさ、引き金の位置なども、「実物があったらこうなるだろう」という作法で作っていきました。ストックの位置など、あの構造だと狙いを定めるのが非常に難しいんですが、昔の銃で似たものがあるみたいで、そうした旧式銃の構造を宮崎駿さんはご存知だったんでしょうね。
――映画はもちろんなんですが、竹谷さんもお好きだという原作漫画へのリスペクトを感じました。
竹谷 基本、原作だと登場するアイテムも多いですし設定も深いので、原作準拠でやっていました。今年の6月末から『金曜ロードショーとジブリ展』が開催される予定で、王蟲たちが並ぶんですけど、それはもう少し映画の要素も入れられないかなとは思っています。
風使いの腐海装束のほうは、あれもこれも作ろうというよりは、鉄砲や小物などの一つひとつをリアルに仕上げる作業が面白かったですね。衣装も専門の方にお願いして、仕上がったものをうちの娘に実際に着せてシワをつけたり(笑)……楽しく作りました。
――宮崎さんや鈴木敏夫さんには何かお声をかけられましたか?
竹谷 王蟲たちは、ご覧になった鈴木さんが「すごいね」と言ってくれたので、ホッとしましたね(笑)。宮崎さんは……なんとおっしゃっているのかはわからないですね(笑)。
――写真集や作品などを拝見すると、竹谷さんは作品をただ作るのではなく、「見た人がどう思うのか」までを考えていらっしゃるのだと感じました。
竹谷 文章でも音楽でも絵でもなんでもいいですけど、“自分で何かやってみようかな”と思うきっかけになってくれたらうれしいなと思っています。でも、こう考えられるようになったのは、最近の話です(笑)。
あと、絵とか造形って、いつの時代も、どの地域でもマイノリティ側じゃないですか。そういう(ものが好きな)人たちが、生き生きとできるような世の中になってほしいなと思っています。その手助けになりたいですけど、僕は「こんな仕事をしてるんです」と見せるだけしかできないですけどね。
※宮崎駿監督の「崎」はたつさき
〇アニメージュとジブリ展
名古屋会場 2023/4/22~6/11
「朽ちゆく巨神兵」「風使いの腐海装束」を展示
詳細は→ https://animage-ghibli.jp/
〇金曜ロードショーとジブリ展
東京会場 2023/6/29~9/24
「王蟲の世界」を展示
詳細は→ https://kinro-ghibli.com/