初めて古代船を発掘調査したときの感動

――これまでのキャリアで心が折れた仕事はありましたか?

山舩 (17世紀頃に海運業で栄えた)ジャマイカのポート・ロイヤルですかね。最初は「素晴らしい場所に行ける!」という気持ちだったんですけど、実際の発掘作業は本当に大変でした。50cmくらいしか先が見えない濁った水中で、船ではなく街、100mくらいあるエリアの撮影をしないといけないことを知ったときは愕然としました。

あとは、バーモント州にあるレイク・シャンプレイン湖での2回目の発掘調査。初回は水深3mくらいの場所だったんですけど、このときは水深30mくらいを調べることになったんです。僕は“8月だから大丈夫かな”と甘く見ていたところもあって、ドライスーツを着ないでウエットスーツで海に入ったんですけど水温が約4℃とかで……。暗い水中でのフラッシュを使った撮影や、低体温症になりながらの作業は本当に大変でした。

――(笑)。大変な経験をされているのですね。それでは逆に、発掘作業で一番気持ちがアガるのはどんなときですか?

山舩 船体部分の木材が出てきたときですね。一番印象に残っているのが、2011年のイタリアでの僕にとって初めての古代船の発掘調査です。当時の僕は、知識こそ深めていましたけども、まだ本物の古代船を見たことがなかったんです。なので、実際に古代船を発掘して、その木材に触れたときは感動しましたね。「長い時間をかけてやっと辿り着けた」といううれしさは、今でも忘れられません。

――発掘された木材はどんな感じの感触なんですか?

山舩 身近なもので例えるなら、たくあんとか、水に濡れた大根のような感じですかね。形はしっかりしているけれど、少し柔らかくて、力を加えすぎると崩れてしまう可能性もある。そんな状態の木材を取り扱っています。

――発掘作業をしているときはチームでの集団生活をしなければならないそうですが、あまりプライベートがない生活での息抜きの方法は何かありますか?

山舩 僕は野球をやっていたこともあってなのか、集団生活にストレスを感じることがないので、あえて息抜きをする必要もないんですよ。でも、これまで手伝いに来られた学生さんのなかには、どんなに勉強の成績が良くても、団体生活に馴染めないという方もいました。研究者になるには現場で作業をしなくてはいけないので、それも“才能”と言うか、必要な要素だと思います。

▲初めて古代船を発掘調査したときの感動は忘れられない

――さまざまな国の方と一緒に働くうえで、心がけていることはありますか?

山舩 とにかく楽しむ。それに尽きると思いますよ。最近だと、野球の日本代表に加入したヌートバー選手が注目を集めましたけど、彼のプレーや仕草が多くの人の心を奪ったのは、全力で野球を楽しんでいたからこそだと思うんです。

研究はやらなければならない“仕事”ではなく、“趣味”に近い部分もありますから。あまり真面目になりすぎずに、待ちに待ったイベントを楽しむような感覚で、プロジェクトメンバーとの交流を深めるようにしています。

考古学研究を脅かすトレジャーハンターの存在

――考古学のプロジェクトは、どのようなところから依頼されるんですか?

山舩 世界中の国や大学から依頼を受けることが多いですね。ギリシャやイタリアのような観光業で経済が成り立っている地中海エリアは、考古学の研究に対して力を入れていて、深い理解を示してくれているので、発掘も盛んに行われています。

でも、考古学の研究が行われているのはほとんどが先進国なので、貧しい国の遺跡を保存するのは、多くの苦労が伴いますし、課題も残っています。19〜20世紀初頭にかけての植民地時代のように、途上国の遺跡を先進国が勝手に掘り起こして、自分の国の成果として持っていってしまうような例もまだ残っているので、途上国の研究者が自国の歴史を研究できるような素地を残していくことも、私たちの課題かなと思っています。

――山舩さんの著作では、トレジャーハンターの存在についても指摘されていました。危険な目に遭ったこともあるんですか?

山舩 彼らは盗賊なので、ほとんど表には出てこないんですよ。なので、日常生活に例えるなら、研究者が警備員で、彼らが空き巣のような感じです。トレジャーハンターと聞くと、どこかロマンやカッコよさを感じてしまうものですが、全然そんなことはなくて……。彼らが遺跡を破壊して金目の物を持ち去ってしまうことの違法性や、さまざまな悪事をおこなっていることに僕らは憤りを感じています。

▲「一生懸命にやること」が一番大切です

――好きな仕事をするために必要なものはありますか?

山舩 「一生懸命にやること」が一番大切だと思います。僕の場合は、歴史の本をたくさん読んでいたこと、野球に対する未練がなくなって、全力で研究に打ち込めたことが大きかったのかなと感じています。僕が寝る間を惜しんで勉強できたのも、水中考古学が好きだったからに他ならない。だから、僕自身は勉強に対しての苦しみを、まったく感じていないんですよね。

「まだ好きなものが見つけられていない」という方は、まずは目の前にあることをやってみて、好きになれそうなものを見つける。そして、好きなものを見つけたら、真剣に打ち込んでみるといいんじゃないかなと思います。

――「山舩さんのような水中考古学者になりたい」という方へのメッセージをお願いします。

山舩 まずは興味のある研究テーマを見つけることが、一番大切かなと思います。ダイビングのできる考古学者であれば「水中考古学者」を名乗ることができるので、そこまでハードルは高くないんですよ。最近は注目されているジャンルですし、海に潜れる方にはいろいろなチャンスがあると思うので、“楽しそうだな”と感じた方は、ぜひ進路として考えていただけたらと思います。


プロフィール
 
山舩 晃太郎(やまふね・こうたろう)
1984年3月生まれ。2006年法政大学文学部卒業。テキサスA&M大学・大学院文化人類学科船舶考古学専攻(2012年修士、2016年博士号修得)船舶考古学博士。西洋船(古代・中世・近代)を主たる研究対象とする考古学と歴史学の他、水中文化遺産の3次元測量と沈没船の復元構築が専門。Twitter:@KYamafune、公式ウェブサイト:水中考古学者と7つの海の物語