私たちの仕事は『科捜研の女』野生動物版

――ストランディング調査は、年間を通してどれくらいあるのですか?

田島 年間を通して300件近くの報告があります。全国各地には、さまざまな組織や拠点が存在しています。例えば、北海道には「ストランディングネットワーク北海道」というNPOがあり、九州には長崎大学、宮崎大学、鹿児島水族館などがあります。四国の愛媛大学も重要な役割を果たしています。これら各地域の拠点が、海洋生物の回収や調査を担当しています。

私の所属する博物館が直接対応するのは、そのうちの50件ほどです。あくまでも私ではなく、博物館の対応件数ですね。私たちの機関はストランディング専門ではないため、ストランディングに対応する予算や人手は確保できていません。全国各地の組織や拠点と協力し合い、情報を共有しながら、なんとか対応しているのが日本の現状です。

――ストランディングの原因は?

田島 自然の摂理として、すべての生物はいつか必ず死にます。しかし、その原因が病気によるものなのか、衰弱死なのか、老衰なのか、あるいは餌の枯渇なのか……。さまざまな可能性が想定されます。

人間の社会で考えると、変死体が見つかった場合、法律により必ず法医学的解剖が行われます。その一方で、野生動物の場合、ほとんどが変死体で発見されますよね。死因を解明するためには、その生物に直接触れて、観察し、調査し、研究する必要があります。『科捜研の女』というテレビドラマがありますが、例えるなら、私たちはその野生動物版みたいな感じです。

――大阪湾に迷い込んだ「淀ちゃん」が亡くなったと聞いたとき、すごくショックでした。

田島 名前や愛称がつけられることで親近感が生まれましたよね。亡くなったのは残念でしたが、人々の意識が変化するきっかけとなったのであれば、とても価値のあることだと思います。日本では同様の出来事が年間300件ぐらい起きている、淀ちゃん以外の事象についても関心をもってもらうきっかけになってくれればと思います。

▲日本では同様の出来事が年間300件起きているという 写真:田島氏提供

資格を持つことで仕事の選択肢は広がる

――現在の仕事をしていて、自分の性格が向いていると思う部分や、苦手だと感じる部分はありますか?

田島 先ほど話したみたいに、学生時代は人間関係が苦手だと思っていて、今も得意なほうではないと思っているのですが。この仕事をしていて、意外と人前で話すのは苦手ではない、ということに気がつきました。

現場に行くと、さまざまな人と関わったり、調査を進めるために指示を出す状況が多いのですが、高校のバスケ部で部長を務めていた経験が、現場のコマンダー(指揮官)として人をまとめるという観点で役立っています。

苦手なのは、事務作業や書類関係ですね……。そのなかでも、お金の計算はとても面倒な作業になります。調査に行く際の費用や経費なども、自分で管理しています。他人任せにして、結果的に予算が赤字になった場合、私が知らなかったとは言えないので。こう話すと、会社員の方々とそう変わらないところで、悩んだり、煩わしく思ったりしてるというのが、わかっていただけると思います(笑)。

――若い人や後輩から相談される機会もあると思います。「好き」を仕事にするうえで、どんなアドバイスをされていますか?

田島 最近は増えてますね。特に中高生や大学1年生、そのなかでも女性からの相談が多いです。私からのアドバイスとしては「学歴は高いほうがいい」とは常に伝えています。私自身の経験からでもありますが、女性はやはり手に職を持つことが重要です。例えば、動物学者になりたいと思っていても、狭き門であり大変な努力をしなくてはいけません。だけど、獣医師の資格を持っていれば、仕事の選択肢は広がります。

――やはり資格(免許)が大事なんですね。

田島 ロールプレイングゲームに例えることがあるんですが、多くの武器を持っていたほうが先に進みやすいですよね。若いうちにいろんな情報を得る、たくさんの経験を積む。そうすると必要な免許(資格)とか、どの専門職に向いているのかっていうのが見えてきます。自分なりの能力や知識を武器として持つことができれば、うまく進めるようになると思います。

さらに、大事なのが「自分は何が好きなのか」「どのように関わりたいのか」です。私のように学問から好きになるのか、それともイルカやクジラの近くにいたいと思うのか、それによって選択肢は違ってきますよね。(海洋生物の)ウォッチングに関わる仕事、ダイビングに関わる仕事、あるいは水族館の職員になる、といった具体性が出てきます。どのように関わりたいのかをはっきりさせることが大切です。

――「好き」を具体化することも大事なんですね。

田島 ただし、あまりにも愛着を持ちすぎると、仕事がツラくなることもあります。私自身、海の生物が好きか嫌いかわからなくなることがあるんです。場合によっては、ただのファンでいるほうが楽なこともありますよね。「好き」を仕事にしてしまうと、全く違う観点から対象を見なければならないから。そういった点も伝えたことがあります。