人生で一番読んだ漫画は『あしたのジョー』
連載を開始したのが2020年とのことだが、キッカケはどんなことだったのだろうか。それには、担当編集の“田辺さん”という人物が大きく関わっていた。
「『週刊SPA!』で(エッセイなどの)連載を10年やらせていただいて、ひと区切りとなったとき、“また違うかたちで連載させていただけるのかな”と思ったら、田辺さんから“4コマ漫画を描きませんか?”って言われたんですよ。
“さすがにそれはできないですね”とずっと断っていたんですけど、2020年の年始、コロナになる前の正月旅行で、バヌアツに行ったときに“ハッピーニューイヤー!”って花火がドーンと上がって、美味しいバヌアツ牛を食べながら、ワインを飲んでいる耳元で、(帯同していた田辺さんから)“4コマ描きませんか?”って言われて。“ほんなら描きましょか?”と……。まんまと作戦に乗せられましたね」
こうして始まった4コマ漫画連載。執筆作業は毎週日曜日の午後、ジュニア宅で行われる。
「昔から一緒にやってる作家の松本(真一)と田辺さんに、僕がいろいろ話をして。“それええんちゃう?”とか“ちょっとわかりにくいかもね”なんて言いながら、ラフというほどでもないものをパパッと描くまでにだいたい2時間くらい。そのあと、通常の仕事をやりながら、空いてる時間で下描き、次の日曜日までにペンを入れるという感じです」
あまり4コマ漫画に触れてこなかったというジュニアが、連載を始めて約2年半の月日が流れた。未開の地だった「4コマ」の世界について、ジュニアは、どんなことを感じているのだろうか。
「コントにもトークにもできない部分ができるところ、4コマ漫画じゃないと表現できない“笑い”みたいなものができたときは、良かったなと思いますし、面白いジャンルやなと思いますね」
ジュニアが描く4コマは、ジュニア自身が登場したり、オリジナルキャラクターや空想の世界の話が出てきたりと、バラエティに富んでいる。ただ、その作風に葛藤しているところもあるようだ。
「自分の漫画に自分を描いて、自分に何か言わせて……と身辺雑記のようなものは“4コマ漫画としては卑怯なのかな”と思うことがありますね。でも、顔を出して仕事してる人間が描いてるから、逆に言うと“漫画家さんにはできないことやから、いいのかな”とか思ったり。模索しながらやっています。なんとなくですけど、ここから、身辺雑記のようなものは少なくしていけたらと考えてます」
YouTubeチャンネルで、南原清隆(ウッチャンナンチャン)や平子祐希(アルコ&ピース)などから連載について声をかけられた、と明かしていたジュニア。このインタビューでは、意外な人物からも声をかけられたと話してくれた。
「上白石萌音さんが“面白いです”みたいなことを言うてくれはりましたね。若い女性にそんなこと言われることないんで、それは良かったなと思いました」
〇千原ジュニア単行本「嗚呼 蝶でありたい」発売!インタビュー記事ではカットされていた取材現場の本当
『嗚呼 蝶でありたい』には、これまでジュニアが手がけた名作コントのなかから、千原兄弟と渡辺鐘(現・桂三度)が2003年に行った単独ライブ『プロペラを止めた、僕の声を聞くために。』から『少年と鹿と鉄骨』の前日譚が、ストーリー漫画として描かれている。なぜこの題材を選んだのだろうか。
「田辺さんが、どうしても『少年と鹿と鉄骨』を描いてほしいと。他にも何編か考えたんですけど、あれやったら、フキダシなしの無声漫画でできるし、まあいいんじゃないかなって」
無声とはいえ、初めてストーリー漫画に挑んだジュニア。こう感想を述べた。
「“難しいな”とは思いながらも楽しくもあり、という感じですかね。人生で一番読んだ漫画が『あしたのジョー』(講談社)で、『少年と鹿と鉄骨』の最後のシーンは、オマージュなんておこがましいですけど、『あしたのジョー』のラストと同じ構図にさせていただきました」
同漫画のラストカットは、コントの冒頭につながる重要な場面。こちらは『あしたのジョー』最終回のラストカットの構図とリンクする部分が多いので、ぜひ見比べてほしい。
最後に4コマ漫画はもちろん、テレビ・舞台・YouTubeなど各媒体で、ゼロイチを生み出し続けているジュニアに、今後の野望を聞いた。
「何か作品は作っていきたいですけどね。この年齢で4コマ漫画を始めたのもそうなんですけど、映画なのかドラマなのか、CMを作る側なのかわかりませんが、死ぬまで、いろいろな初体験ができたらいいなとは思います」