ハワイの“九刀流”プレイヤー・IKF選手

2人目は、内外野のほぼすべてのポジションを守れるスーパーユーティリティのアイゼイア・カイナーファレファ選手(28)。ファンのあいだでは通称“IKF”で愛されています。

ハワイ出身の日系3世で、昨シーズン(2022年)はショートで、守備の要としてトレード加入をしたものの、打撃・守備ともに振るわず、シーズン終盤にはルーキーのオズワルド・ペラザ選手にスタメンの座を奪われてしまいます。しかし、今季はさまざまな守備位置につき、準レギュラー兼控え要員のスーパーユーティリティとしてチームをしっかりと支えています。

パッと見、本職から追いやられ失脚に近いような状況に見えど、この裏にはIKFの人格・魅力が見え隠れています。昨シーズンはショートの守備で致命的なエラーを何度か犯してしまい、打撃でも貢献できず、最終的にはファンの顰蹙(ひんしゅく)を買ってしまいました。

プレイオフの試合後には、やさぐれたファンがIKFの運転する車に突撃し罵倒するという見苦しい事件もあったくらいでした(本当にヤンキースファンのダメなところすべてが詰まった悪の権化のような話……)。

しかし、辛辣なヤンキースファンやメディアからの批判に耐えられずに、チームを去った選手とは裏腹に、IKFはめげず腐らず努力を続けました。オフにはショート一本へのこだわりを捨て、ショートでの守備を鑑みてあえてやっていなかった体重増加を試み、さらにはスプリングトレーニング時には自らの申し出で外野出場も開始しました。

いざシーズンが開始をすると、主にセンターを守り(6/12現在、28試合出場)、レフト(14試合)、サード(9試合)、ライト(2試合)とチーム事情に合わせ柔軟に対応してきました。逆に本職のショートは1試合の出場に留まっているものの、それに対して不満などはひとつも言わず、「どんな形でも貢献できればいい」とチームプレーに徹しています。

そして、アーミーナイフへの化身を完成させたのは、先日果たした野手登板デビュー! 本人も楽しんでいたようで、イニング終了後に恒例の粘着物質チェックにも前向きでした。残念ながら審判はノってくれませんでしたが(笑)。

前テキサス・レンジャーズ時代にはキャッチャーとセカンドも守った経験があるので、これでファースト以外の全ての守備位置についたことになります。これだけ万能な選手はめったにいないでしょう。

これだけ泥臭く、ある種プライドを捨ててヤンキースに貢献をしようとしているIKFは、辛辣なヤンキースファンのハートをがっちり掴み、ヤンカスお得意の嵐の如くの掌返しを大量発生させることに成功しました。これも日本文化の真面目さや努力精神といった良いところの現れかもしれませんね。

課題である打撃も、4月は打率.200/OPS.445と大不振で始まってしまったものの、5〜6月は今のところ打率.267/OPS.750と平均以上の打撃(しかもちょこっとパワー!)を魅せており、今後も期待しちゃいたくなる数字ですね。

日本の野球ファンがヤンキースでアツくなる日まで

最後に筆者の主観ですが、やはり日本でもヤンキースで盛り上がってほしいのが本音。かつては松井、田中、イチロー、黒田といった名前が飛び交ったように、ヒガシオカ、IKFという名前が我々の日常生活に浸透することを心待ちしています。日本の皆さん、ヤンキースのちょびっとジャパニーズコンビを、ぜひともよろしくお願いします。

▲ヤンキースのちょびっとジャパニーズコンビ 写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

プロフィール
KZilla(ケジラ)
ニューヨーク・ヤンキース、およびMLBの魅力をTwitter、note、ラジオなどで発信し続ける注目の野球アナリスト。ニューヨーク育ちの英語力を活かした情報収集力と分析力は、コアなファンからも高い評価を得ている。助手(@StolenBase_13)さんと不定期開催の「ヤンキースラジオ」では、ジャッジ以外のコア選手の不在を嘆いている。Twitter:@TokYorkYankees、note:KZilla|note