今は自分とは違うさまざまな価値観をもった人たちと一緒に働く社会、つまり「ダイバーシティ」の時代。もうすぐ4月、職場の体制も変わる時期でポジションが上がる人も多いでしょう。新入社員や後輩、転職してきた部下などと、性別や人種にとらわれることなく、深く繊細なコミュニケーションが求められます。

大手広告代理店やメディア企業に勤務し管理職の経験もあり、現在は公認心理師として活動している渡邊洋子氏が、臨床心理の知見から新時代のマネジメント方法を教えます。中間管理職の方は必読!

※本記事は、渡邊洋子:著『2020年からのマネジメント術』(ワニブックス刊)より、一部を抜粋編集したものです。

部下の行動をそのまま言葉にするだけ

職場でのコミュニケーションは、とても大切ですし、難しいです。友だち関係であれば、嫌なことなら言わなければいいのですが、仕事となると、仕事を覚えてもらう必要もありますし、指示を出す必要もあります。思った動きをしてくれなければ、本当は言いたくないようなことも言わなくてはいけません。

そんな時も、相手が伝えたことをポジティブに受けとめ、積極的に仕事に取り組んでもらえるようなコミュニケーションが大切になります。信頼を深めていけるようなコミュニケーションの具体例を紹介していきます。

まず、「注目する声掛け」です。これはとても簡単で、今日からすぐに使っていただけるコミュニケーションです。相手のしている好ましい行動について、そのまま言葉にして言ってあげるコミュニケーションです。

たとえば、部下の方がお願いした仕事をやっていたら、「やってくれているね」。
朝早く来ていたら、「朝早く来ているね」。このようにただ言葉にして、言ってあげるだけです。

上手に褒めるのは意外と難しい

少し前に「褒め育てる」というようなものがありましたが、私はあまり賛成できません。本当に頑張った人に「よく頑張ったね」と言ってあげるのは、もちろんいいと思いますし、ぜひ褒めていただきたいのですが、こちらが本当に良いと思っていないのに、相手のモチベーションを高めるために、無理矢理褒めても相手には上手く伝わりません。

元々褒めて効果的なのは、本人が何かを一生懸命頑張って達成し、“やったー!”と思っている時に、こちらも“やったね、すごいね!”と感動を共有する場合。これは上手くいきます。

でもこちらがそれほど良いと思っていない時は、本人もそう思っていません。そんな時に無理矢理褒められても「?」となるだけです。また、褒められれば人は嬉しいか、というとそういった時ばかりでなく、「良い」「悪い」と評価されるコミュニケーションばかり取られても人は疲れてしまいます。

こうしたコミュニケーションは、親子関係でも、上司と部下の関係でも、あまりいい方向に回りません。上手に褒めるというのは、実は難しいスキルなのです。

一方、「注目する声掛け」は、そういった評価を加えず、いいなと思ったら、すぐにそう言うことができます。「いいね」という褒め言葉までは言わなくていいのです。わざわざ口に出してほめるほどでも…ということもすぐに言葉にして会話につなげることができます。

「やってくれているね」「朝早く来ているね」と言うだけですが、実はこれは褒められるより効果的なのです。

自分がやっていることを見ていてくれる、そういう人がいると思うだけで、人はすごく心強く感じるのですね。

さらにそれが、自分が頑張っていることであれば、なおのこと嬉しく、喜びを感じます。やっていることをちゃんと見ていてくれたんだ、わかってくれているんだと、相手から励まされるように感じるのです。ですので、実はこれ、褒めるよりもすごく効果的です。