夏を制するには苦しい試合を乗り越える経験が必要
直近の夏の優勝校を見ると、予選または甲子園で少し負けそうなぐらいの接戦の試合を経験している高校が多い。
前年優勝の仙台育英は、3回戦で猪俣駿太と石川ケニーの継投を擁する明秀日立と死闘を繰り広げた。
先制は明秀日立。2回に武田一渓のタイムリーで先制すると3回にも追加点をあげる。4回には武田のホームランが飛び出す。さらに、6回にはスクイズで手堅く得点を重ね、4-2とする。
試合中盤までリードを許した仙台育英だったが、7回に無死満塁のチャンスを作り、押し出しと犠牲フライで勝ち越した。
投げては、この試合も湯田から古川、齋藤蓉、高橋の継投策でつないだ。
明秀日立が、投手の石川ケニーと猪俣駿太を3回入れ替えるトリッキーな継投をおこなってくるなか、7回裏に2点差をひっくり返し逆転勝利した。
この試合を勝利した仙台育英は、悲願の初優勝を成し遂げた。
2021年の夏を制した智弁和歌山は、甲子園ではゆとりのある勝ち方をしていたが、和歌山県大会では苦しい試合があった。
4回戦の初芝橋本戦では、2回に先制を許し、6回に追いついて7回に勝ち越すも、9回の土壇場に追いつかれた。最終的には、延長13回にサヨナラ勝ちをしたが、苦しい試合を経験した。
さらに、決勝ではセンバツにも出場した小園健太と松川虎生を擁する市立和歌山だ。
この試合は、投手戦となったが6回に小園を攻略し、なんとか勝利して甲子園出場を決めた。
2019年の履正社は、初戦から好投手と当たりながら勝ち上がっている。
また、準々決勝の関東第一に対し、初回にいきなり3点を奪われる展開になった。しかし、自慢の打線でジリジリと追い上げて5回に逆転し、6回に突き放して逆転勝利した。
春2連覇・春夏連覇の「最強世代」と呼ばれた2018年の大阪桐蔭も、予選では苦しい試合を経験した。
苦しんだ試合は、準々決勝の金光大阪戦と準決勝の履正社戦だ。
金光大阪戦では、スライダーの切れ味鋭い左腕の久下奨太と鰺坂由樹を交互に投げさせる小刻みな継投策に、苦しみわずか2点しか得点できなかった。
また、準決勝の相手の履正社は先発として、今大会初先発の濱内太陽を起用。大阪桐蔭にとっては想定外だったことだろう。
大阪桐蔭は根尾昴が先発し、両校の先発が6回まで3安打に抑える投手戦となった。そのような状況で大阪桐蔭は、7回に藤原がチャンスを作り、根尾がタイムリーを放ち先制。さらに、青地斗舞のタイムリーなどで3点差をつけて優位に試合を進めた。
しかし履正社はこのままでは終わらず、疲れが見え始めた根尾をたたみかけた。7回裏に1年生ながら5番に座り、のちにチームを夏の甲子園優勝(2019年)に導いた小深田大地のツーベースを足掛かりに1点を返す。
8回裏には筒井太成、西山虎太郎の連打で1点差。その後、主将の濱内太陽の一塁ゴロのあいだに追いつく。さらに、途中出場の6番、松原任耶が浮いて甘くなった球を見逃さずに左中間に打球を放ち、逆転に成功した。
1点ビハインドの状況で9回の攻撃を迎えた大阪桐蔭だが、焦る様子は全くなく冷静だった。
代打の俵藤夏冴がヒットで出塁し、続く石川瑞貴のバントミスがあったものの、宮﨑仁斗・中川卓也・藤原恭大・根尾の連続四球で追いつく。
そして、山田健太がタイムリーを放ち、大阪桐蔭が逆転に成功。最後はエースの柿木蓮が抑えて、この激戦を勝利した。
このように近年の夏の甲子園優勝は、予選から甲子園まで少なからず苦しんだ試合を経験している。
ただ、夏の甲子園で苦しむ試合が続いてしまうと、炎天下の過密日程が重なり、疲弊した状態になり、最終的には力尽きてしまう。
そのため、甲子園で優勝するには、目の前の試合と同様に、先の試合まで読みながら采配することが必要になってくる。
直近3大会の春夏優勝校と準優勝校の勝ち上がりを見ると、優勝校の準決勝の戦いぶりは、余力を残して決勝に臨んでいる。
2022年:仙台育英 18-4 聖光学院
2021年:智弁和歌山 5-1 近江
2019年:履正社 7-1 明石商
逆に準優勝校は、エースに依存していることや、接戦で投手と野手が疲弊したなかで決勝に臨んでいる高校が多い。
2022年:下関国際 8-2 近江
2021年:智辯学園 3-1 京都国際
2019年:星稜 9-0 中京学院大中京
2022年の下関国際と2019年の星稜は、最終的な点差はあるものの、リリーフでありながらエース格の仲井慎や大会No.1投手・奥川恭伸が長いイニングを投げたため、疲労がある状態で決勝に進んだ。特に下関国際の仲井は、この大会で最長となる8イニングを投げた。2021年の智辯学園は京都国際と接戦後に決勝を迎えた。
優勝を狙うには、1試合あたりはもちろんのこと、大会の日程や組み合わせ、各状況を見ながらのマネジメントも重要になっていくことがわかる。