今回の舞台が終わったら役落としの時間が必要

――今回、演じるディックはどんなふうに自分のものにしていこうと考えていますか。翻訳劇の大変さもあるのでは?

東出 江戸の町人をやるなら江戸弁になるなど、その時代の言葉があると思いますから、翻訳ものだからといってあんまり苦手意識を持たないで取り組みたいと思っています。ただ、お客さんが違和感を抱く言い回しなどは、もしかしたら変わっていくかもしれません。演出の日澤さんとは「臨機応変に」と話しています。台詞の本当に細かいディテールは、これから変わるのかもしれないなと思います。

 

――東出さんはディックに対して、どんな印象を持っていますか。前科者という設定ですが、共感する部分はありますか。

東出 僕は前科ものではありませんが(笑)、けっこう破滅型なところがあったりするんです。今日も友達から飲みの誘いがあったのですが、ここのところ飲みすぎているので、「ちょっと今日は体を慮ってやめるわ」と断りしました。そんな自分勝手でクズな一面もあります(笑)。ディックほど、ジャンキーにはなれないんですけれども、まあ無頼というか、そういう気持ちはわからないではないです。

――誘いを断って、ちゃんとしています(笑)。

東出 いやあ、役者って本当に体を壊すと仕事ができなくなっちゃうので(笑)。モノ作りってどこかで心を鬼にしたり没入したりすると、そもそもの自分というものを忘れたりする。演じる役の中の世界ってどんなだろうと想像したり。我欲だったりプライドが強すぎると、共同作業って難しいと思うんです。

でも、今回の4人は素直にモノ作りできるメンバーだと思うので、稽古期間はみんなでいけるところまでいきたいなと思います。たぶん、僕がいちばん融通が効かないと思います。頭でっかちに考えて「どう思う? 尾上さん?」って聞くと、きっと尾上さんが「いいんじゃない? そんなに難しく考えないで。いけるよ、いける」と言ってくれるのが目に見えます。

――楽しみな組み合わせの4人ですが、主演としてみんなのバランスなどは考えますか。

東出 いや、全く考えないです(笑)。僕は役者ってもっと一人ひとりのものだと思っています。映像でも番手などを確認されたりするけど、僕はそこには全然興味がありません。責任感と緊張感を持って作品に臨むことにおいては、みんな一緒だと思っています。

――主演映画や主演舞台だから「みんなを盛り上げるぞ」「空気を作ろう」とか、そういう意識は持たないですか。

東出 盛り上げることが必要な現場もあれば、必要でない現場もあると思うんです。だけど、基本的には全員野球みたいな気持ちでいます。あとは愚痴っぽくならないようにしようとか。

――愚痴っぽくなるんですか。

東出 虚勢でもいいんですけれども、弱いところを見せちゃうと、やっぱり現場の士気が下がります。だから、「寒い?」って聞かれても「寒くないです」とか、「しんどい?」って聞かれても「大丈夫です」とか強がってみたり。口に出して言葉にして、自分を信じ込ませようというところがあります。

でも、きっと僕がいちばんパンクするのが早くて、尾上さんに話を聞いてもらうという事態をすぐに迎えると思います(笑)。他力本願です。

――こういった役柄にずっと浸っているのは大変なことではないですか。

東出 そこが楽しみなところではありつつ、終わったあと、ちょっと人と会わない時間を作りたいなと思います。そうでないと、私生活ですごく悪い目つきをしたり、言い方が粗暴になったりする癖がもし残っちゃっていたら、なんか怖いなと思うので。役落としが必要なんじゃないかなと思います。

――役に浸る時間が長ければ長いほど、役落としのための時間が必要になりますか。

東出 そうかもしれないです。実在の人物を演じるとなると、なるべく本人をコピーしよう、形態模写したいと思って体型を近づけたり、しぐさを近づけたりします。そういうのは人からもらってくるものなので、終わったあとも癖とかが体に染みついて残っちゃったりするんです。

でも、全く新しい人物だと、東出にある何かをちょっと広げていくことになるので、役の影響が終わってからも出ることは少ないんです。今回のディックみたいな役は、みんながきっとのめり込んで役作りをすると思うので、松本の滞在期間は目つきが悪かったりするんじゃないかなと思います(笑)。

――公演期間に見かけたら怖そうですね。

東出 阿部さんには敵わないかも(笑)。皆で歩くときは星一さんを先頭にして歩くようにします(笑)。星一さんまで人間性が変わっていたら怖いですけどね。