自分の店でお客さんと接して気がついたこと
――『カレーの店・八月』は2020年4月のコロナ禍に開店しましたが、今振り返って当時の状況はいかがでしたか。
曽我部:そのときはちょうどオープンに向けて準備している真っ最中で、バイトさんのシフトとかも決めてたんです。だけど、なかなか厳しい状況になりそうだったので、先に閉めていたカフェのスタッフにもこっちに来てもらって、予定よりも早く営業を開始しました。
とはいっても、最初はテイクアウト中心でしたね。テイクアウトをやっているといっても、30分に一組くらい歩いてくる人がいて、たまに買ってくれるくらいでしたけど。
――曽我部さんも店頭に立たれていたそうですね。
曽我部:僕も朝から来てやってましたね。ここに立つ予定はなかったんですよ。でも、音楽の仕事が全部なくなってしまったので、僕もお店に出ることにしました。あの経験は本当に勉強になりましたね。
――営業準備の段階でテイクアウトをする予定はあったんですか。
曽我部:テイクアウトは考えてなかったですよ。でも、それしかない状況だったので。容器とかが急に必要になっちゃったんで、慌てて買いに行ったりしたんですけど、容器屋さんもめちゃくちゃ混んでましたね。あのとき、テイクアウト用の容器、めちゃくちゃ売れたんじゃないかなと思います(笑)。
初めてのことだから、最初はカレーにどの容器が合うかわからなかったんですよ。そしたら、知り合いの飲食店の方が「あそこの容器がいいよ」って教えてくれて。そこから、あの商品がまた入荷してたよとか、あっちのほうが安かったよとか情報交換したりして。横のつながりというか、人は関係し合っているんだなというのを改めて感じました。
――店頭に立つようになって、お客さんと接するようになって何か感じたことはありましたか。
曽我部:一食に対してお金を払ってもらえるありがたさをすごい感じたし、「おいしかった」「ごちそうさま」っていってもらえたときの喜びに気がつきました。結局、それが飲食店をやっている人の原動力であり、そのために続けているんだなって。
よくよく考えてみたらバンド活動も、ファンの人たちが応援してくれて「元気になった」「ありがとう」とか言ってくれることがうれしくて、その思いに返したいなってことが原動力になっているんですよ。もちろん音楽もカレーも好きなんだけど、その思いだけじゃやっていけないんだなって。お客さんの笑顔があるから成り立っているんですよ。
――お客さんに喜んでもらえる、ということを改めて実感したと。
曽我部:そうですね。ここでカレー作って、お客さんに食べてもらって、お金をいただいて、「ごちそうさま」と言っていただく。その一連の流れを体感していなかったら、そのありがたさを忘れてしまっていたかもしれないです。だから、コロナの期間はもちろん大変だったんですけど、僕にとっては勉強になった期間でもありました。
――その経験が音楽活動につながった部分もありますか。
曽我部:つながっていますね。やっぱり飲食業や音楽業って、お客さんがいるから成り立っているので。自分のアーティスト性や料理に対する哲学も大事だけど、最後はお客さんが「いいね」と言ってくれるかどうかが大切ですから。
僕は音楽業で生活できているけど、それはお客さんに支えられているからこそなので、自分の才能だけで成り立っているとは思ってないです。お客さんが僕らの音楽を気に入ってくれて、お金を払ってくれるから僕は音楽ができているんだって考えると、「お客さまは神さまです」っていう言葉は真実だと思います。それを改めて考えるようになりました。
――料理も音楽も「お客さんがいるから成り立つ」という部分では同じなんですね。
曽我部:ただ、音楽は芸術でもあるので違う部分もあります。例えば額縁に入っている紙に何も書いてないとしても、「これが芸術なんだ」って言えば、そういう表現なんだと思ってもらえるけど、料理で「こういう表現なんです」と言って何もないお皿を出したら、怒られるでしょ(笑)。それにお客さんに“おいしい”と思ってもらわないといけないので、音楽よりも料理のほうがシビアですよ。
――では、最後に曽我部さんにとってカレーとはどんな存在か。改めて教えてください。
曽我部:子どもの頃の気持ちに戻してくれるものですかね。「今日の給食カレーだ! やったー!」みたいな。最近はカレー屋さんに行くと、おしゃれなお皿にすごいきれいに盛り付けされていて、卵とかが乗っていたりするじゃないですか。そんなきれいな姿のカレーでも、いざ目の前にきたら「やったー!」って思うんですよ。カレーはそういう存在ですね。
(取材:梅山 織愛)