世界中に拡大する新型コロナウィルスの脅威、そしてSNSで大きな反響を呼んだ『100日後に死ぬワニ』などにより、私たちはいつもより「死」を意識する瞬間に身を置いているかもしれない。そんな今こそ、東京大学名誉教授でもある矢作直樹先生と一緒に、人類の究極の命題に向き合ってみよう。

※本記事は、矢作直樹:著『「死」が怖くなくなる50の神思考』(ワニブックス刊)より、一部を抜粋編集したものです。

すべての病気は“気づき”のためにある

世の中にはさまざまな病気があり、なかにはどういうメカニズムで発症するのかわからない病気もたくさんあります。

そして、遺伝的なものや先天的なものもありますが、生活習慣病のように後天的なものもあります。いずれにしても、病気には共通点があります。それは本人の気づきのために起こるものということです

たとえば難病指定の病にかかった場合、大変ご不安になるのはわかります。そして、病気によっては、病状が進めば、歩けなくなったり、しゃべれなくなったりと、どんどん身体機能が低下していきます。

そうなれば、今までしていた仕事や生活はできなくなり、誰かの手を借りながら生きていかざるを得ません。そこに不安があるのはある意味当然だと思います。しかし、びくびくしながら過ごすのはどうでしょう?

全ての患者さんにいえますが、「QOL」(生活の質)を高めることが大切です。びくびくしながら生きるのは、車いすの生活よりも、QOLが低いといえるのではないでしょうか。QOLを支えるのは言うまでもなく、心のあり方です。たとえ寝たきりになったとしても、心穏やかに過ごせれば、素晴らしいことなのです。

一方で、病気が気づきのために起こるのだとしたら、あなたがなんらかの病気になった場合、大変、残酷な言い方になって申し訳ないのですが、もしかしたら病気になる前から「不安」という大きな種を心の中に持っていたのではないでしょうか。神様はもっとあなたを不安にさせて、それを手放すために使いなさいと言っているのかもしれません。

いずれにしても、答えはあなた自身が知っているのだと思います。ですから、これからどんな症状がでてくるのだろうとびくびく過ごす時間はないのです。何に気づき、どう生きるのか。それしかないのだと、知ってください。

大切なことは何年、どのような状態で生きるかではないのです。それよりも、生まれてから死ぬまでにどれだけ気づきを得て、何を学べるかではないでしょうか。病気によって何に気づくのかは自分自身が知っているはずです。

あらゆる病気を気にしないで生きるコツは「中今」

具体的にパニック障害を例に考えてみましょう。

パニック障害というのは、人込みや狭い空間などで、急にパニック症状が起き、めまいや過呼吸などになることです。まさに「死ぬのではないか」というほどのパニックに陥る状態です。

心療内科での一般的な治療は投薬とカウンセリングになるでしょう。しかし、薬はあくまでも対症療法であることを知ってください。根本的な原因は自分自身の中にあるのです。ということは、解決方法も自分自身の中にしかないのです。しかし、そこになかなか気づけないので、パニックという現象を起こしてまで、あなたにアラームを発しているのです。

ストレスといってしまうと、あまりにも大雑把ですが、基本的にはストレスだと思います。仕事のこと家族のこと経済的なことパートナーとのこと、全てが順調だという人は少ないでしょう。皆さん、何かしらトラブルを抱えながら生きています。

しかし、そのトラブルを「問題」と捉えるかどうかは、私たちの自由です。それを「問題」と思うとストレスになり、場合によってはパニック障害にまでなってしまうかもしれません。その反対に、気にしなければストレスにはならず、病気も発症しないのです。

気にしないでいるコツは「中今」です。過去や未来に意識を向けず、「今」という一瞬に意識を合わせるのです。私たちの人生は1秒1秒の積み重ねです。そして、そのたった1秒には「問題」がないのです。

もし、「中今」に意識を合わせることが難しいならば、自分の行動を「実況中継」する練習をしてみてください。たとえば、「今、手を伸ばした。コップを持ちました。肘を曲げて、コップを口に近づける。水を一口飲む」という具合です。

自分の行動を「実況中継」する練習 イメージ:PIXTA

自分の行動や所作を丁寧に行うと、けっこう集中力が必要です。そして、余計なことを考えているヒマがなくなります。ただ単に、忙しくして、不安を忘れるのではなく、今を丁寧に生きるのです。