暗号資産とはインターネット上でやり取りされる資産ですが、メタ(旧フェイスブック)が構想した「リブラ」は、ビットコインと違って投機性もないので、当初は提携するとしたクレジットカード会社も多かった。しかし、メタのリブラ構想は、ドルによる金融支配体制をも脅かす存在になりかねないとなって、米欧を中心とする国々によってつぶされたのです。経済評論家・渡邉哲也氏が、暗号資産とリブラ構想について解説します。

※本記事は、渡邉哲也:著『世界と人間を操る お金の学校』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。 

暗号資産とは分類上では「商品」

暗号資産は現物をつくることができません。本物の硬貨(コイン)をつくると通貨偽造になってしまうのです。

ですから、デジタル上の資産でしかありません。そして、その分類は「商品」ということになります。わかりやすくいえば、鉄や小豆などの商品先物取引と同じといえます。

暗号資産には大きく分けて、

  1. 価格が変動するもの
  2. ドルなどにペッグ(連動)するもの

があります。2.をステーブルコインといいます。そして、ステーブルコインを発行するためには、それに見合うドル資産の保全が必要です。

過去には暗号資産を裏付けにしたステーブルコインがありましたが、破綻したことで規制が厳しくなっています。また、これはドルと同じですので、世界各国の規制当局は銀行免許の保有を義務付けようとしています。

また、1.の価格が変動する商品型の暗号資産には、A:発行主体があるもの(中央集権型)と、B:ビットコインのように発行主体が曖昧なもの(分散型)が存在します。

Aの場合は責任がはっきりしていますが、運営主体などが破綻した場合、その価値を失う可能性があります。Bの場合は保有者などが責任を共有している形ですが、主体がないため、トラブル対応などをしてくれません。

1.の商品型の暗号資産は価格変動が激しく、取引を通じて利益を得ることが主な目的になっています。2.のステーブルコインは決済用であり、暗号資産間の資金移動などに使われます。

しかし、このステーブルコインはドルなどに裏付けされているので、現金と同様といえるわけです。そして、これは最終的に現金となって、銀行口座などに移されます。つまり、最終的な価値の保存は暗号資産ではなく、現金で行われているわけです。

▲暗号資産とは分類上では「商品」 イメージ:Taka / PIXTA

通貨圏としては中国よりも大きかった「リブラ」

メタ(旧フェイスブック)が構想した「リブラ」は、ドル・ユーロ・円・英ポンドといった法定通貨を担保にした、通貨バスケット制のステーブルコインです。この点は、ビットコインとはまったく違い、投機性はないし、当初は提携するとしたクレジットカード会社も多かったのです。

しかも、メタのユーザー数は世界中で30億人弱もいるといわれ、中国の人口の2倍以上の規模です。したがって、通貨圏としては一国よりも大きく、通貨の決済機能として優れています。

ユーザーのなかには多くの発展途上国の人々や、先進国に住んでいても貧しい暮らしを余儀なくされている人々「アンバンクト(Unbanked)」と呼ばれている人が多く、これらの人々は、先進国では当たり前だと思われている多くの金融サービスを利用することができません。

リブラには、そのアンバンクトな状況を劇的に改善させることができるという大義名分もありました。

しかもリブラは、国境を越えてグローバルに利用できるため、法定通貨のように両替する必要もなく、為替リスクも発生しません。

日本からブラジルへの送金も、リブラを使えば簡単にできるし、ブロックチェーンを使うことで一般的な海外送金よりも送金手数料は安くすみます。

また、中央集権的な政府や中央銀行のような発行主体ではなく、「ブロックチェーン」という技術によりインターネット上で分散管理され発行される予定でした。つまり、技術の信用により、仮想通貨を発行しようとしたのです。

▲通貨圏としては中国よりも大きかった「リブラ」 イメージ:Chakisatelier / PIXTA