ブロックチェーンの改竄が極めて難しい理由
メタ(旧フェイスブック)が構想したリブラは、ブロックチェーンを使うことで一般的な海外送金よりも送金手数料を安くしました。
ブロックチェーンでは、取引が「分散型台帳」にすべて記録され、ユーザーは購入した「ウォレット」(財布)と呼ばれるアプリで、暗号資産をパソコンやスマートフォンなどに保存し、管理することができます。
ブロックチェーンは、ネットワーク内で一定期間内に行われた仮想通貨の取引データが記載された「ブロック(台帳)」を、ほかのブロックにつないだものです。ブロックチェーンは改竄(かいざん)が極めて難しいといわれています。というのも、取引データを書き換えると、各ブロックをつなぐ「鎖」が切れてしまうからです。
また、暗号資産のもう一つの特徴は、「P2P(ピア・ツー・ピア)」というデータ共有技術が用いられていることです。これは、中央にサーバーを置かずに、ネットワークでつながっているすべてのコンピュータでデータを共有する技術です。
たとえばビットコインの場合、同じ取引所や販売所に登録しているすべてのユーザーが、ブロックチェーンに記録されたデータを共有しています。
取引に参加しているすべてのユーザーが同一の台帳を共有しているので、仮に、あるユーザーのコンピュータ上の台帳がハッカーからの攻撃などで改竄されても、ネットワーク上で全ユーザーのデータを照合する作業が自動的に始まり、正しい台帳を共有している別のユーザーのデータをもとにして、データを復旧することが可能となるのです。
暗号資産の取引データを台帳に記録し、更新していく追記作業を「マイニング(採掘)」といい、マイニングによって約10分ごとに、新しいブロックが「鎖」でつながれたように次々と連結していくので、ブロックチェーンと呼ばれるわけです。
各国政府の中央銀行から大バッシング
この中央銀行を介さないで済む、国家を乗り越えたリブラ構想はまさにグローバリズムの真骨頂といっていいものであり、それゆえに各国の権力者たちの逆鱗(げきりん)にふれたのです。
G20はリブラ構想に反対の立場を示し、メタは世界各国すべての運営する国で、銀行免許を取るよう要請されました。
銀行免許を取るには、それを取る条件を全ての国で満たさなければならないのですが、そうすると、自由な運用などできるわけがなく、チェックのコストだけでも大変なことになってしまいます。
銀行免許を取るというのは、「ファトフ(FATF:マネーロンダリングに関する金融活動作業部会)」が求める、本人確認をはじめとする全ての条件を整えなくてはならないので、匿名で偽のアカウントがとれてしまうような甘い加入条件のメタでは不可能です。
さらに、EUが2020年9月末に発表した「デジタル通貨規制案」により、デジタル通貨発行の事前承認や、ルール違反の際の罰金制度が導入されました。
裏付け資産が万全に確保されているかを、欧州銀行監督局(EBA)に直接監督させ、調査や立ち入り検査の権限を持たせ、違反があれば罰金を科せるようにしたのです。
これは暗号資産に対する包括的な規制としては、世界初のものでした。EUは国際基準づくりの主導権を目指し、リブラ構想をつぶし、ECBが発行を目論む「デジタルユーロ」を広めていく戦略でしょう。
リブラ構想は各政府中央銀行から大バッシングを受けて、メタは規模を大幅に縮小した「ディエム」に切り替えましたが、いまだ実現していません。ようするに国家としては中央政府と中央銀行がコントロールできない通貨が市場に投入される事態を抑えたいのです。
なぜなら、リブラ構想は中央銀行が持つ「通貨発行権」という絶大な権力を脅かし、また国家からすれば、国家破壊主義につながるような思想でもあるからです。
世界各国は、中央銀行を使って紙幣を刷り、発行益を得ています。これを「シニョレッジ(通貨発行益)」と呼びます。
たとえば1万円札の原価は20円程度であり、1枚刷るごとに9980円の利益が出る計算です。ところが、発行主体も明確ではなく、資産の裏付けもない暗号資産の流通量が増え、決済手段としても広まっていくことで、国家が享受していた貨幣発行特権が大きく毀損(きそん)されてしまうのです。
そればかりか、法定通貨に支えられた一国の経済システムにも大きな影響を与えます。また、暗号資産が中央銀行の金融政策の影響を受けないという問題もあります。そのため仮想通貨が主流になることで、中央銀行の金融政策の効果を阻害する可能性が高くなるのです。
仮にインフレ懸念があるとき、景気の過熱を抑えるために中央銀行は金利を上げ、通貨量を絞って景気調節を行いますが、国家の枠組みを超え、国家の監督下にない暗号資産が肥大し、それが一定量の資金として流動するようになると、中央銀行による景気のコントロールが利かなくなってしまう可能性があるわけです。
特に経済規模の小さな国では、仮想通貨が国の経済政策に与える影響がより深刻になることが十分に考えられます。そうなれば、暗号資産は当然現在のブレトンウッズ体制、すなわちドルによる金融支配体制をも脅かす存在になりかねないのです。