阪神が一枚上手だったベンチワーク

また、敗れはしたものの、3戦目に今シーズンリリーフとしてフル回転していた山岡泰輔からも得点をあげたことや、4戦目はジェイコブ・ワゲスパックからサヨナラ打を放ったため、オリックスからすると接戦時に起用しやすいリリーフ陣をじわじわと攻略されていたのがわかる。

その結果、最終戦では宇田川や山﨑颯といった投手を投入するのが後手になり、試合が決まったあとの登板となった。

打率や本塁打数などのわかりやすい数字だけではなく、試合巧者として1試合単位からシリーズを通した戦い方を見ても、阪神が一枚上手だったのがわかるシリーズだった。

レギュラーシーズンから日本シリーズを通して見ても、今年の阪神の戦いぶりには、非常に魅力的なものを感じた。

近本と中野の1、2番コンビは間違いなく12球団トップクラスであり、先発からリリーフまで、投手陣も盤石だった。

また、シーズンでは不調だった青柳晃洋を日本シリーズ最終戦で先発に大抜擢したことや、怪我明けの湯浅を起用して、2試合連続で流れを引き寄せて勝利した岡田采配は素晴らしいものを感じた。

巨人ファンである私から見ても、勝利へのパターンのバリエーションが豊かであり、スマートな勝ち方も多く、真の強さを感じられた。

日本球界最高の投手・山本由伸も意地を見せる

日本一は阪神に譲ったものの、第6戦で日本球界最高の投手・山本由伸が意地を見せた。

第1戦で先発をしたものの、まさかの7失点でマウンドを降りていた。ただ、この試合も岡田彰布氏の采配が冴えていたとも言える。

佐藤輝明がヒットで出塁すると、盗塁を決めて山本由伸のリズムを崩す。その結果、渡邉諒の先制タイムリーなどで5回だけで4点を失った。

この試合を含め、山本由伸はこれまで日本シリーズで未勝利だった。昨年はチームは日本一に輝いたものの、初戦は敗れてしまったのと、その後は怪我で離脱を余儀なくされた。

今年も初戦こそ敗れたものの、王手をかけられた第6戦で意地を見せた。

第6戦は、試合序盤こそ力を抑えていたように見えたが、尻上がりに調子を上げていき、9回を1失点で完投し、1試合の奪三振の日本シリーズ記録を更新する14個を奪った。

日本では最後の登板とも言われていたなかで、中盤以降は多彩な変化球を活かして、近本や中野、木浪といった厄介な打者を並んでいる阪神打線を抑え込んだ。

3年連続となる沢村賞と投手四冠に輝き、チームをリーグ3連覇、日本一1回に導き、これぞエースという存在であった。

日本代表としても、国際大会はプレミア12、東京五輪、WBCの三冠に貢献しており、日本ではほとんどやり残したことはないだろう。今オフにポスティングシステムによるメジャーリーグ挑戦がほぼ確実視されている。

野球人にとって最高の舞台となるメジャーリーグでタイトル獲得はもちろんのこと、でサイ・ヤング賞争いに加わり、受賞することにも期待していきたい。

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2023年の日本シリーズは関西対決となり、盛り上がりを見せた。

2024年シーズンは、セ・リーグは日本一となった阪神タイガースを止めるチームが出てくるのか。パ・リーグはオリックス・バファローズの4連覇を阻むことができるのか。来シーズンも見どころがたくさんの日本プロ野球から目が離せない。


プロフィール
ゴジキ(@godziki_55)
野球著作家。これまでに 『巨人軍解体新書』(光文社新書)や『東京五輪2020 「侍ジャパン」で振り返る奇跡の大会』『坂本勇人論』(いずれもインプレスICE新書)、『アンチデータベースボール』(カンゼン)を出版。「ゴジキの巨人軍解体新書」や「データで読む高校野球 2022」、「ゴジキの新・野球論」を連載。週刊プレイボーイやスポーツ報知、女性セブンなどメディア取材多数。最新作は『戦略で読む高校野球』(集英社新書)、『21世紀プロ野球戦術大全』(イースト・プレス)。X(旧Twitter):@godziki_55