趣味をきっかけにYouTuberへ異例の転身
――その後は、バス会社から鉄道会社への転職を決意されます。
綿貫 ずっと鉄道会社の仕事にも興味があって、新卒のときにも受験しましたが、先に内定をいただいたバス会社に入社することに決めたんです。でも、バス会社で働いているうちに「鉄道の乗務員になってみたい」「今の年齢で鉄道会社に転職すれば、電車とバスの両方の運行に携われるんじゃないか」と考えるようになり、採用試験を受けたら合格しました。
――鉄道会社の採用試験を受けようと思った理由は?
綿貫 鉄道の運転士は養成に時間と費用がかかるため、多くの会社が年齢制限を設けています。そのため、このタイミングを逃したら、運転士になることはできないと思ったことが一番の理由です。僕の場合は、まずは3年半ほど駅員をやったあとで、車掌を2年間担当し、そこから試験を受けて30歳くらいで運転士になるつもりだったんですけど……。
――そのタイミングで“交通系YouTuber”になったんですね。
綿貫 はい。すごく悩みましたけど、会社を退職することに決めました。
――YouTubeチャンネルは、いつ頃からやっていたんですか?
綿貫 鉄道会社に転職して2年目を迎えた2017年から、本格的に動画を作成するようになりました。最初は趣味で撮影した乗り物や旅行の写真を自分のブログで紹介していたんですけど、残念ながらほとんど誰からも見てもらえなくて……。“YouTubeにアップしたほうがいいのでは?”と思って動画を撮影したところ、徐々に再生回数や登録者数が増えていって、だんだん軌道に乗っていきました。
――活動の手応えを感じたタイミングはありますか?
綿貫 「日本一遅い終電に乗る」という動画をアップしたときです。高崎駅に1時37分に到着する高崎線の最終電車※に乗るという内容なんですけど、実際にはダイヤ改正の影響で、2番目に遅い終電だったことに気づいて…(苦笑)。あとから「元日本一」に修正しました。
でも、この動画が5万回くらい再生されてから、徐々に登録者数も増えていって、多くの人に見ていただけるようになりました。皆さんが動画を見て、コメントをつけてくださるのが本当にうれしいですし、視聴者の反応がある楽しさはYouTubeの魅力であり、僕のやりがいにもなっています。
〇【元・日本一遅い終電】高崎線高崎行き最終に乗車【午前1:37着】
平日:東武野田線の船橋発七光台行き(七光台1時16分着)
休日:JR京都線・神戸線の京都発西明石行き(西明石1時14分着)、高崎線の東京発高崎行き(高崎1時14分着)
公共交通機関を利用してほしい
――運転士になりたいと思って転職した鉄道会社を辞めて、“交通系YouTuber”として活動することに専念しようと思った理由はなんですか?
綿貫 他の皆さんもそうかもしれませんが、当初はYouTuberとして生計を立てていくつもりは全くなかったんですよ。YouTubeの再生回数や登録者数が徐々に増えてきて、仕事との両立が難しくなってきたことが、退職を決めた最大の理由です。最初は“運転士になりたい”と思って鉄道会社に入り、そのための試験も受けたんですけど、試験の結果を知らぬまま、会社を去ることになったのが少し心残りですね。
――え? 結果が出る前に辞めてしまったんですか。
綿貫 はい。運転士として勤務するためには、試験に合格したあとに1年くらいの長い研修を受ける必要があるんです。YouTubeの活動と両立できたらよかったんですけど、“現実的にはかなり難しいだろうな”と思いまして、残念ながら退職することにしました。でも「鉄道の運転に携わることができたら」という気持ちは変わらないので、例えば鉄道会社さんとのコラボ企画とかで、またチャンスがあれば挑戦したいと思っています。
――退職された背景には、YouTuberとして生計を立てていける、という手応えがあったんですよね?
綿貫 会社を辞めた時点では、YouTuberとして生活していくのはギリギリのラインだと思っていました。でも、当時は会社員として勤務していた頃の貯金もありましたし、もし仮にYouTubeがうまくいかなくても、しばらくは生き延びられますし、タイミングを見て再就職を探せばいいかな? くらいに思っていたので、あまり不安は感じていませんでした。今も続けられているのは、僕の活動を応援してくださっている皆さんのおかげです、本当に感謝してます。
――公共交通機関の抱えるさまざまな問題についても取材されています。特に地方では鉄道の廃線が相次ぎ、代わりの公共交通機関としてバスが整備されるケースも多く見られますが、公共交通機関の今後についてご意見を聞かせてください。
綿貫 答えのないテーマだと思いますが、利用者の減少が問題の背景にはあると思います。公共交通の利便性は素晴らしいものがありますが、利用者が減ってしまうと、減便や廃線は避けられない。意外なところに便利なバスや鉄道が走っていることもあるので、それらを調べてみて、実際に利用してみる。地道ではありますが、利用することが一番大切なのかなと思っています。
――さまざまなレポートをされていますが、今後訪れてみたい目的地はありますか?
綿貫 基本的には、あまりお金をかけずに、行きたい所に出かけるというスタンスで企画を作っているんですけど、先日動画をアップロードした「日本一高い国道」(群馬県渋峠)に、季節限定で走っているバスがあるので、それは実際に乗って動画にしたいと思っています。あとは、先日、韓国を旅したときに、日本と異なる交通機関の面白さも感じました。コロナ禍の影響もなくなってきたので、海外の動画撮影とかにも出かけてみたいですね。
(取材:白鳥純一)
〇『逆境路線バス職員日誌 車庫の端から日本をのぞくと』[二見書房オフィシャルサイト]