「普通の人でいたかった怪物」
第6章を踏まえての第7章は、松根新体制による鶴田エース改造計画がテーマ。新体制のブッカーとして手腕を振るった佐藤昭雄(あきお)、全日本プロレス中継プロデューサーだった原章(はらあきら)氏の戦略、そして日本人初のAWA世界ヘビー級王者としてのアメリカでの活躍、評価など、輝きを取り戻した時代の検証である。
第8章は、鶴田の中の怪物が覚醒する前段階になったジャパン・プロレスとの対抗戦時代。あの長州力との60分フルタイムを徹底的に検証したし、長州には大学のレスリング時代の思い出を聞いた。実際、長州は取材を嫌がったのだが、それでも呼び捨てではなく、先輩として敬って「鶴田さん」「鶴田先輩」と呼びながら、ポツリポツリと語ってくれた大学時代の鶴田の思い出話は貴重だ。
そして第9章は鶴龍対決、第10章は超世代軍との戦いという、この本のメインになる部分。この2章だけで200ページを越えているので、じっくりと読んでいただきたい。
締めの第11章は、第一線を退いてから亡くなるまでの晩年の人生。師匠・馬場との最終的な関係にもスポットを当てた。天龍源一郎と三沢光晴が成し得た馬場フォールを、なぜ鶴田はできなかったのか? その答えを読み取ってほしいと思う。
こうして、気付けば最初に話をいただいてから3年近くの月日が経ち、書き終えてみたら実に592ページになっていた。正直、私のキャリアの中でも大仕事だった。
最終的に「ジャンボ鶴田は何者だったのか?」は読者の皆さんに委ねられる。この一冊からジャンボ鶴田を読み取り、ジャンボ鶴田というフィルターを通した旗揚げから平成初期までの全日本プロレスの大河ドラマを堪能し、そしてサブタイトルにした「普通の人でいたかった怪物」の意味を感じ取っていただけたら幸いだ。オーッ!