成熟とマンネリは紙一重
僕は北海道日本ハムファイターズの大ファンで、今年はシーズン2位、そしてクライマックスシリーズでも「あと1勝で日本シリーズ進出」とかなり躍進したけど、新庄監督の派手な言動は賛否あってほぼ毎日炎上していた。
最近のSNSのタイムラインは賢いから、僕が「否」を好まないことを学習して、誹謗中傷めいた投稿は流れてこない。ただ「否に対する否」、つまり「誹謗中傷に怒っている投稿」は大量に流れてくる。否の反対は賛じゃなくて別の否なんだな、疲れちゃう。
この一連は“平和ボケ”なんだとも思う。もっと本当にヤバい時代なら、誰かを叩いてる暇なんてない。無論このコラムを読む暇もなくなるのが悲しい。
およそ5年前、新型コロナが流行した。社会が強制的にシャットダウンされて、人との距離が物理的にも精神的にもリセットされた。2mのソーシャルディスタンスによって、世界が少しだけ静かになった。それは優しさかと思ったけど、ただ沈黙していただけなのかもしれない。
お笑い業界も変わった。有観客ライブができなくなり、オンライン配信が当たり前になった。今まで会場に足を運ばないと観られなかった”おもしろ”が、スマホの中に引っ越した。さらに芸人さんたちはYouTubeで自分たちのコンテンツを提供するのが当たり前となった。それどころか2~3チャンネル掛け持ちするのが普通になりつつある。
僕はテレビ朝日の局員だった2019年(コロナ以前)に、金属バットという芸人さんとYouTubeで『金属バットもういっちょ』という番組をスタートさせた。「金属バットにYouTubeなんて俗っぽいものをやらせるな」とものすごい叩かれたのを思い出した。
結果的に、芸人さんとファンの距離は、遠くなったようで近くなった。
さらに今、芸人さんがラジオやPodcastなど自分の音声メディアを持っているのも当たり前になりつつある。「この芸人さんがラジオをやったら面白いんじゃないか?」と思ったら、もうだいたいやっている。番組に付随したイベントや、グッズ販売もセットで行われている。
コロナと時を同じくして「テレビの衰退」も、お笑い界をじんわり変化させた。「強いコンテンツ」が不足していることも相まって、年末の『M-1グランプリ』が国民的行事になりつつある。賞レースの神格化、今や準決勝まで進出すれば売れてしまう時代。いや、下手したら1回戦のTOP3に入れば注目されてしまう。Gyaoで3回戦の動画がこっそり配信されていたころが懐かしい。
お笑い業界全体が成熟しつつある。
もちろん芸人さんにとっては、仕事も給料も増えてとても良いことだと思う。バイトしないで生活できる、いわゆる「食える」芸人さんはかなり増えた。
ただし、成熟とマンネリは紙一重。僕自身も同じ。
2022年8月に会社を辞めて独立して、そこからなんとかふんばって今ちょっとだけ会社が成熟しつつある。
同じことの繰り返しは全然ワクワクしない。
たまに「全部辞めたろかな」と思う。愛する社員がいるからそんなことはしないけど。
「そこを進んでいけば大丈夫」というような、正解の道がはっきりしている。関係者たちは、「どうやって進むか」ではなく「誰と進むか」を考えてる。
贅沢かもしれないけど「正解かどうかわかんない、多分正解っぽい? どう?」くらいの道を進んでいるときが1番楽しい。
ちゃんと振り切れば、ちゃんと走ればヒットになる
つまり、詰まり、どん詰まり。
そんな世の中、そんなお笑い業界、そんな自分とリンクしてなくはないと思う。
イチローが昔インタビューで、
「詰まったら負けという発想は捨ててください。詰まらせてヒットを打つという高度なテクニックもあります」
と話していた。僕も見習おう、詰まっていたって大丈夫。打球が弱くても、ちゃんと振り切れば、ちゃんと走ればヒットになる。
僕のひいひいじいさん(高祖父)は、「浅草来々軒」という中華料理屋をやっていたらしい。本当かどうかわからないけど「清湯麺」という麺料理がどうしても日本人の口に合わなかったので、スープに醤油を足した結果“日本初の醤油ラーメン”になったとのこと。どこかの文献に「浅草来々軒が発祥」と書いてあったのでどうやら本当らしいのだが、嘘でもかなり面白い。
ざっくり「こんなこと」をしたい。「清湯麺に醤油を入れる」みたいなこと。清湯麺がマズいと嘆くのではなく、新しい味を足す。成熟しすぎて“正解”しか残っていないように見える世の中で、もう一手、ぶち上げたい。
打席に立ち続けられるうちは、ゲームセットじゃない。
ちなみに、鈴木忠平さんの文章はこんなんじゃないです。
前述の2冊もですが、『虚空の人 清原和博を巡る旅』も相当面白かったのでぜひご一読ください!
次回の『TP社長日記』は、2025年11月20日(木)更新予定です。お楽しみに!!
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高橋 雄作


