敗者復活戦に回った組で面白かったのは

敗者復活戦に回った組の中では、ネコニスズ、生姜猫、黒帯、カナメストーン、例えば炎、カベポスター、スタミナパンが特に面白かった。

その中でも、黒帯とカナメストーンは今年ラストイヤー。惜しくもストレートでの決勝進出は逃したが、二組とも“らしさ全開”で、本当に楽しそうだった。最高成績が準々決勝だった二組が準決勝に立っただけでも胸に来るものがあるし、勝ち上がっても不思議ではない風が吹いていた。

黒帯とカナメストーンには、おそらく僕だけが気づいている共通点がある。それは、テレビ朝日のマスコットキャラ「ゴーちゃん。」の推しコンビだということだ。僕がテレビ朝日で働いていた頃、ゴーちゃん。は「お笑い好きマスコット」として知られ、黒帯の自主ラジオ「黒帯会議」のリスナーを公言して界隈をザワつかせたり、カナメストーンとTwitterでかわいいラリーをしてファンアートが描かれるほど仲良くなっていた。

今年から敗者復活戦の会場が「EX THEATER ROPPONGI」に変わった。このホールはテレビ朝日の「ゴーちゃん。スクエア」内にある。これは“ゴー縁”。

僕は2022年にテレビ朝日を辞めたため、今ゴーちゃん。がどうしているか知らない。ただ、どんな立場であろうと、心の中ではこの二組を応援しているはずだゴー。

M-1グランプリ2025の出場者は11,521組。準決勝進出は31組。確率にして 0.2691%。どれだけすごい数字か調べたところ、「雷注意報が実際に落雷する確率」「外食チェーンでコーヒー1杯をこぼす確率」と同じくらいらしい。驚くほどピンとこない。ピンとこないくらいすごい数字なんだということにした。

風向きひとつで変わる境遇の残酷さ

あとはやっぱり僕は「どん兵衛」が気になってしまった。入口には今年も“ジャンボどん兵衛”が展示されていた。2022年に金属バット友保さんが持ち帰って話題になったあれだ。それを見るだけで、笑い声やため息や、終演後の打ち上げに向かう足音まで、過去の激闘の風が一気に吹き返してくる。

▲盗人がいないためガードの緩いどん兵衛コーナー

M-1ファイナリストは、どんな風が吹いても一生“M-1ファイナリスト”として生きていく。逆に、ラストイヤーを終えた漫才師は、一生“M-1ファイナリストではない人生”を歩む。風向きひとつで変わる境遇の残酷さを思うと胸が締め付けられる。「もしあの日、会場の風向きが違っていたら?」と考えてしまうのは、彼らを決勝に上げなかったM-1に対する、ファンなりのささやかな“抵抗”なんだと思う。決して審査を否定したいわけじゃない。ただ、“あの漫才師にM-1ファイナリストとして生きていってほしかった”という、どうしようもない願いが胸に溜まってしまう。

それでも、風に乗って「THE SECOND」へ向かう漫才師がいる。その背中には、“あの日届かなかった追い風”を自分で起こしに行く覚悟が見えて、ただただかっこいい。

追い風に乗るセンスと判断力、向かい風に立ち向かう強さと勇気、そして、ときに自分たちで風を起こしてしまう爆発力。

準決勝で“風”を掴んだ9組が、決勝でどんな旋風を起こすのか。

「M-1グランプリ2025」決勝と敗者復活戦は12月21日。

30組の芸人全員が、どうか健やかにこの日を迎えられますように。

その日に吹く風が、どうか彼らの背中を押しますように。

次回の『TP社長日記』は、2025年12月18日(木)更新予定です。お楽しみに!!


プロフィール
高橋 雄作(たかはし・ゆうさく)
株式会社TPコーポレーション東京X代表取締役。高橋プロデューサー略して「TP」と呼ばれている。東京都出身。1987年9月27日生。早稲田大学政治経済学部卒。テレビ朝日に新卒で入社し「Qさま!!」「お願いランキング!」「もういっちょシリーズ(金属バット・蛙亭・ランジャタイほか)」などを担当、PやDを務める。2022年8月に独立し会社設立。「金属バット無問題(YouTube)」「板橋ハウスのラジオディア(stand.fm)」など様々なコンテンツを手掛ける他、お笑いラジオアプリ「GERA」チーフP、ライブ配信サービス「SHOWROOM」コンテンツDも務める。また「新横浜ラーメン博物館」にあるラーメン店「浅草来々軒」のオーナーも務めている。お笑いと北海道日本ハムファイターズとフライドポテトと柿の種が大好き。Twitter:@takahashigohan、オフィシャルサイト:株式会社TPコーポレーション東京X