個性的な器楽曲が多いイタリアとフランス

19世紀のイタリアやフランスはオペラが中心だったが、個性的な器楽曲の作曲家も多い。ルードヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンと同じ時代の最も人気がある作曲家は、ジョアキーノ・ロッシーニだった。『ウィリアム・テル序曲』などは独立しても演奏される。

ジュゼッペ・ヴェルディは、『怒りの日』の爆発的な高揚が人気の『レクイエム』を書いた。オペラには間奏曲などが挿入されるが、ピエトロ・マスカーニの『カヴァレリア・ルスティカーナ』間奏曲は最高の傑作だ。

ナポリでは『帰れソレントへ』などイタリア民謡の名作が生まれ、オペラ歌手たちがアルバムを出している。イタリアの器楽曲では、ジェノヴァ生まれで史上最高のバイオリニストだったニコロ・パガニーニの『ヴァイオリン協奏曲第1番』や『24の奇想曲』がある。オットリーノ・レスピーギは『ローマの松』など3部作を書いた。

▲ジェノヴァ旧市街の路地 イメージ:PIXTA

フランスでもジャコモ・マイアべーアなどのグランド・オペラが大人気だった。気宇壮大なエクトル・ベルリオーズは、オペラも書いたが『幻想交響曲』はフランスの交響曲で最高の人気。『ローマの謝肉祭』や『ラコッツィー行進曲』は、オーケストラのアンコール・ピースとして人気だ。

やはりオペラ関係では、最も美しいヴァイオリンの小品かもしれない『タイスの瞑想曲』、ジョルジュ・ビゼーの『アルルの女第1&2組曲』、ジャック・オッフェンバッハの『パリの喜び』など目白押しだ。

カミーユ・サン=サーンスの『動物の謝肉祭』の『白鳥』は、チェロのために書かれた最高の曲だ。『序奏とロンドカプリチオーソ』は、私は最高のヴァイオリンのための曲だと思う。『交響曲第3番』は、パイプ・オルガンを設置したコンサートホールがただ1曲だけ威力を発揮できる曲だ。

▲パイプオルガン(サンシュルピス教会) イメージ:PIXTA

ヴァイオリン曲では、エドゥアール・ラロの『スペイン交響曲』とスペインのパブロ・デ・サラサーテの『チゴイネルワイゼン』もいずれも人気曲だ。20世紀初頭に活躍したクロード・ドビュッシーの印象派的な交響詩が『牧神の午後への前奏曲』だ。

ピアノ曲も多いが、『月の光』は銀色の月光が舞い降りるイメージを見事に描き出している。モーリス・ラヴェルはオーケストラの魔術師で、『ダフニスとクロエ』や『ボレロ』はオーケストラの腕前を最も発揮させてくれる名曲だ。

ガブリエル・フォーレは、モーリス・ユトリロやジャン=バティスト・カミーユ・コローの絵画を音楽にしたような作曲家で、『レクイエム』の清浄な響きは心が洗われる。ベルギーのセザール・フランクは、『交響曲』と『ヴァイオリン・ソナタ』が二大名作。

おしゃれな感じのエリック・サティは、ピアノ曲『ジムノペディ』が人気。ジョゼフ・カントルーブが編纂した『オーベルニュの歌』は、その清浄な雰囲気が何ものにも代えがたい。戦後の作曲家では、オリヴィエ・メシアンの『トゥーランガリラ交響曲』が記念碑的な名交響曲。

※本記事は、八幡和郎:著『365日でわかる世界史』(清談社Publico:刊)より一部を抜粋編集したものです。