正能量報道は捏造されたフェイクニュース

中国の対外大プロパガンダ、国際世論誘導はチャイナマネーの威力もあって、WHOを巻き込んだり、イタリアなどEUを手なずけたり、いろいろ仕掛けているように見えますが、国内の世論誘導はそれほどうまくいっていないと思います。

それをはっきり感じさせた事件は、2020年3月5日の副首相・孫春蘭の武漢視察、それに続いて武漢市の書記・王忠林が打ち出した「感恩教育」への反発です。

3月5日の午後、副首相の孫春蘭は中央指導チームを代表して武漢市の居住区(青山社区)を視察しました。

▲孫春蘭 出典:ウィキメディア・コモンズ

このときマンションの窓から「噓だ! 噓だ! 全部噓だ!」「私たちは高い野菜を買わされている」「形式主義だ!」といった罵声が、孫春蘭に向かって飛んできました。このときの映像がネットに流れています。おそらくマンションの一室の窓から、地元住民の誰かがスマートフォンで撮影したのだと思われます。

一党独裁極権政治の中国で、一般庶民が党中央の高級官僚や指導部メンバーに対して、直接罵声を浴びせかけることは極めて珍しいことです。それは命がけの行為だからです。

中国ではインターネットの匿名でも、習近平を批判したり揶揄したりするだけで逮捕されます。たとえ起訴されなくても「精神病治療」の名のもとに監禁され、妙な薬を打たれて家に戻ってくるころには廃人、といったケースも多々あります。

▲深圳市に設置された「習近平思想」の屋外広告 出典:ウィキメディア・コモンズ

最近の事件で思い浮かぶのは、2018年7月に習近平のポスターに墨汁をかけた董瑤瓊が、その直後逮捕されて1年後に釈放されたころには、痴呆状態の廃人になっていた例です。

この社区の住民は、そうした政治的リスクを承知で、孫春蘭一行に向かって、罵声を浴びせかけました。武漢市民がそれほど苦しみ追い詰められ、中国共産党中央政府そして武漢市政府に対して、憤怒の感情を持っているということに他ならないでしょう。

孫春蘭は、こうした罵声を受け、午後には地元政府に命じて社区の住人3000人に対して、直面する困難や不満などの聞き取り調査を命じ、矛盾を回避し、形式主義や官僚主義を根絶し、群衆の満足度を上げるように指示した、とCCTVなどが報じています。

一部中国メディアも報じていましたが、この社区ではボランティアが、野菜や肉をマンション管理人に届ける“ふり”をさせて、助け合いの美談という“正能量ニュース”を捏造していました。

それで、住民たちは「正能量報道はフェイクニュースだ。高い野菜を買わされているんだ」と本当のことを、中央指導部のメンバーでもある孫春蘭に訴えたわけでした。